第54話 協力プレイ③
「私は準備できたよー。ショコラちゃんは?」
「私も大丈夫です」
2人の準備ができたところで、クエストが開始した。砂漠フィールドに降り立ったショコラとマルクトさん。マルクトさんは相変わらず支給品に目もくれずに一目散に次のエリアに進んでいく。
ショコラは支給品から恐らくそんなに使わないであろう回復薬と食料と支給品にある爆音玉を2個回収した。計3個。序盤のクリーチャーだしなんとか足りるだろうと俺は楽観した。
例によってマルクトさんを追いかけるショコラ。その道中で、リクガメのクリーチャーがショコラに接近してきた。そして、体当たりをしてきてショコラがダメージを負ってしまう。
「あ、こら。やりましたね。こうなったら、生肉の刑です!」
ショコラが短剣を抜刀してリクガメを斬っていく。完全に無駄な戦闘。別に大勢の雑魚クリーチャーに囲まれたわけでもないのに、たった1匹の非討伐対象を倒すために割く無駄な労力。
バッサバッサとリクガメを斬り、リクガメはその場で息絶えた。そのまま、ショコラはリクガメの肉を剥ぎ取り、生肉を入手した。
「はっはっは。スレイヤー様に逆らうからこういう目に遭うのです」
『貴重なリクガメが』
『生肉の分際で攻撃する方が悪い』
雑魚クリーチャーを倒してアップが終わったところで、次のエリアに進んでいく。既にマルクトさんが戦闘を開始していて、爆音玉を投げて地中のウォーワームを引きずり出している。
爆音に驚いたウォーワームは地面の上で陸に売り上げられた魚のように跳ねている。その隙に弱点である頭部をマルクトさんが長剣で斬っている。
「加勢します!」
ショコラも短剣を抜刀してウォーワームに斬りかかる。ウォーワームは起きて、立ち上がる。そして、尻尾でスレイヤーを薙ぎ払おうとする。
マルクトさんはその攻撃を盾でガードして、ショコラは回避性能に優れる短剣のお陰で攻撃を回避した。ここまでは順調だ。だが、ウォーワームは再び、地中に潜った。地中にいる間は攻撃が当たらない。地面が盛り上がっているところからウォーワームがどの位置に頭があるのかを推測しなければならない。そこに爆音玉を投げ込めばウォーワームは驚いて地上に姿を現すわけだ。
「てい!」
マルクトさんが爆音玉を投げる。しかし、爆音玉を大きな音を立てるだけでウォーワームを引きずり出すことができなかった。残念。範囲外だったようだ。
「私に任せて下さい」
ショコラが爆音玉を投げる。見事にウォーワームの頭上で音が炸裂して、ウォーワームが地上に出てきた。
「ナイス! ショコラちゃん!」
マルクトさんがウォーワームに近づき攻撃を仕掛けていく。するとウォーワームの周囲が電気のようなものがビリビリと流れ始める。これは麻痺状態だ。マルクトさんは麻痺属性の武器を使って、ウォーワームの動きを止めたんだ。
移動方法がうざい相手には麻痺は有効な手段だ。なるほど。マルクトさんがしていた準備はこの麻痺属性の武器を持ってくることだったんだ。
「おお。流石ですマルクト様」
「どう? 凄いでしょ」
麻痺している相手に次々に斬りかかっていく2人。麻痺も一定期間で解除されてしまう。それまでに少しでもダメージを稼がなければ。
麻痺状態が解除された後、ウォーワームは咆哮をあげた。その咆哮攻撃を受けたショコラとマルクトさんは耳を塞いで怯んでしまった。その隙にウォーワームは再び地面に潜る。そして、別のエリアへと逃げるのであった。
「相手は瀕死状態だったね。だから、エリア4に移動して眠っているはず。行こう」
「はい」
ショコラとマルクトさんはエリア4を目指して走り始めた。位置的にはショコラの方が前に出ている。そのまま何も起きずにエリア4に移動できた。案の定、ウォーワームは寝床で眠っている。
俺はこれをチャンスだと思った。眠っているクリーチャーに対する攻撃は倍増する。その仕様を利用して、ダメージが高い爆弾で大ダメージを与えてやろうと思った。
ショコラはウォーワームに近づき、近くに爆弾を置いた。後はこの爆弾に衝撃を与えれば起爆する。そう思った次の瞬間だった。爆弾がなぜか爆発して、ショコラの体力が0になり、その場に倒れてしまった。
「え?」
「え?」
マルクトさんの画面を見てみるとマルクトさんの体力もなくなっている。これはどういうことだ。
【ターゲットを討伐しました】
どうやら、ウォーワームも倒してしまったようだ。正にこのエリアにいた全員が爆死するというとんでもない展開。俺の脳は理解が追い付いていない。
『爆発してて草』
『大草原不可避』
『知 っ て た』
『爆発助かる』
『まーたショコラちゃんが炎上している』
『ショコラちゃんが爆弾を置いた後にマルクト様が剣で起爆。完璧なコンビネーションだった』
『もう剥ぎ取り間に合わないねえ』
「なんで起爆してるんですか!?」
「なんで爆弾置いてるの!?」
力尽きたショコラとマルクトさんは拠点へと戻されてしまった。標的のクリーチャーを倒したら60秒間の剥ぎ取りタイムがある。だが、ここから走ったところでどう頑張ってもエリア4には辿り着けない。剥ぎ取りができないまま、ギルドへと帰ることになってしまうだろう。
「え? いや、普通に休眠爆殺狙いませんか?」
「確かに休眠爆殺は強いけど、爆弾設置する前にそれ言ってよ!」
口調こそ責めてはいるがマルクトさんが画面越しで笑っていることは伝わってくる。本気で怒っているわけではなさそうだ。
『これは爆弾設置したショコラちゃんが悪い』
『爆弾置くモーションが見えた後に、攻撃したマルの方が悪くね? タイミング的には爆弾置いた後に攻撃しないと起爆の当たり判定でないはず』
『リスナー的には面白いからオッケー』
『全部俺が悪い』
『報連相の大切さを学べる配信』
『どうしてヨシって言ったんですか? どうして……どうして……』
2乙したことで報酬が3分の1にまで減ってしまった。なんという残念な結果になったものだ。素材の剥ぎ取りにも失敗したし、爆弾も無駄に浪費したし、いいことが何もなかった。これがマルチプレイの罠なのか。
まあ、ゲーム的には悲惨な結果に終わったけれど、配信としては撮れ高の塊のような展開でかなりおいしかった。
「ああ。お金がもったいない」
マルクトさんが減らされた報酬額を見て嘆いている。下位の報酬額はそんなに気にするほどの金額でもないのに。王族設定なのに貧乏性の庶民っぽいとは聞いていたけど、ここでもそれを発揮するのか。
「さてと。時間も時間だし、そろそろお開きにしようか」
マルクトさんがそう提案した。俺もそれには賛成かな。ゲームは面白いけれど、かなりの時間泥棒だ。このままでは俺の本質である3Dモデリングの時間がなくなってしまう。
「ええ。そうですね。マルクト様本日はコラボにお誘いいただきありがとうございました」
「ううん。こちらこそありがとうねショコラちゃん。面白かったよ」
一緒にコラボする前はかなり危険人物かと思ってたけれど、なんだか普通に楽しくコラボできて良かった。あれはきっとVtuber特有の狂人を演じていただけなんだな。きっとそうだ。そうに違いない。そう思い込もう。
「それでは、そろそろお開きにするね。投げ銭してくれたみんなの名前を読み上げて終わりにします」
マルクトさんは名前を読み上げて、彼らにお礼を言っていく。
「今日はみんな見に来てくれて本当にありがとうね。ショコラちゃん。リスナーのみんなに向けてなにか言っておきたいことあるかな?」
「はい。本日はコラボ配信を見に来てくれてありがとうございます。商業のゲームをやったのは久々なので楽しめました。みな様のコメントも面白いものばかりで、こちらもかなり盛り上がりました。後でじっくり読ませて頂きますね。重ねて言いますが、今日は本当にありがとうございました」
「はい。それじゃあ私から一言。嘘のエリア情報言った者。制裁するからな」
ドスの効いた声でリスナーに脅しをかけるマルクトさんだった。
『怖E』
『まだ根に持ってて草』
『制裁助かる』
「それじゃあ配信切るね。お疲れっしたー」
「お疲れさまでした」
こうしてマルクトさんとのコラボ配信は終了した。ゲーム内では炎上したけれど、配信では特にやらかしもなく無事に終わることができて良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます