第51話 クリーチャースレイヤー

 ネット通販で買った例のブツが届いた。俺は自室にて、段ボールのテープをハサミの刃で切り裂き、中身を確認する。


 クリチャースレイヤーのソフトと、最新の携帯ゲーム機V-NEXブイネクスだ。箱から取り出すと、新品の電化製品特有のにおいがここまで漂ってくる。このにおいを嗅いでいると妙にワクワクする。


 電源スイッチの位置や記憶媒体のカードを差し込むところを確認する。そして、付属のカードを差し込んで起動する準備を整える。


 早くゲームをプレイしたいという気持ちで期待感を高めて、いざ電源を投入する。


【電池残量が不足しています。充電をしてください】


 いきなり出鼻を挫かれたな。とりあえず、充電器を差し込んで充電が完了するまで待とう。充電完了まで何時間くらいかかるんだろうか。それまでパソコンで作業でもするか。


 パソコンで作業をすること3時間ほど。オレンジ色に発光していた充電ランプが緑色へと変わっている。充電が完了した証拠だ。充電器を外して電源を投入する。


【本体の更新をしています。しばらくお待ちください 0%】


 また始まった。とは言っても更新は充電より時間はかかりそうもない。作業するにしては中途半端な時間だし、適当に動画でも見て時間を潰すか。


 というわけで、師匠ことエレキオーシャンのリゼさんの過去作のMVを見るか。参考にできることはしようと思う。


 それにしても、師匠は本当にモデルの造形が上手いな。延々と見てられる。これには惚れこまざるを得ない。


 そんなこんなしていたら、本体の更新も終わった。それじゃあ、本体の設定でもしていくか。まず最初に設定するのは言語(language)だ。俺は日本人だから当然、日本語を選択する。


 そして、次にきかれたのは生年月日と性別と本体の名前だ。生年月日は別に嘘偽りをする理由がない。設定でフレンドに非公開することもできるし。性別は……男性と女性とその他か。ちょっと前の俺なら迷わず男性を押していたけど、なんでか今はその他を押したい気分だ。その他でいいや。


 さて、本体の名前はなににするか。名前だけはフレンドに非公開にすることはできない。一応Vtuberとも繋がる予定があるので本名を入力するのはまずい。かと言って、ショコラって名前を使うのもまずい。一応、リア友の三橋ともフレンド登録する約束をしているし。


 ある程度匿名性が保たれつつ、ネットとリアル同時に俺だって確実にわかるそんな名前をつけなければな。うーん……【ガトー】でいいか。ショコラで繋がっている人には、ガトーショコラだと思われるし、リア友には俺の名字だって伝わるだろ。


 よし。とりあえず、本体の情報登録は終わった。これでゲームを起動すれば問題なくプレイできるはずだ。


 ゲーム機がカートリッジを読み込み、ゲームが開始した。美麗な3Dグラフィックのデモムービーが流れる。


 色彩豊かな鎧兜を身に包んだスレイヤーがジャングルを歩いている。スレイヤーはなにかに気づき、上空を見上げる。次の瞬間、小型の恐竜のようなクリーチャーが飛び掛かってきた。スレイヤーは背中に担いでいた大剣を抜刀して、恐竜の爪での攻撃を剣で防いだ。恐竜は弾き飛ばされたが、すぐに体勢を整えて再びスレイヤーに襲い掛かる。


 その時だった。カメラワークが上空に移り、上空から巨大な翼竜が急降下していく映像が流れる。翼竜は恐竜の首元に思いきり噛みつき、再び上空に舞った。


 その後、翼竜は恐竜を丸呑みにすると今度は咆哮をあげてスレイヤーに近づいていく。スレイヤーは息を飲み翼竜に向かって剣を振るおうとする。


 その時、剣を振るうSEサウンドエフェクトと共にタイトル画面に移った。


 うーん。凄い。これがプロの仕事か。中々に魅せる映像だ。このゲームに没入するような仕掛けがいくつも盛り込まれている。


 俺がゲームをやっていた頃は、俺はまだクリエイティブな活動をしてこなかった。その時の俺が見たら、きっとこの映像も「すげー」の一言で終わらせていただろう。


 けれど、自分がいざクリエイターの端くれとなった今、映像とか3Dモデルの造形をクリエイター目線でチェックしてしまっている。一種の職業病というやつかな。広い視野で物事を見れるようになったと言えば、聞こえはいいけれど純粋なプレイヤー目線ではなくなったような気がする。


 まあいいや。とにかく、ゲームを開始しよう。


 【NEW GAME】を押すと、キャラを自在にクリエイトすることができるようだ。名前から性別、髪型や顔の造形、肌の色、声なんかも設定できるようだ。


 これはいくつもデータが作れるみたいだな。複数のセーブデータを使い分けられるのはありがたい。Vtuberの配信で使うデータとプライベートで使うデータを分けられるのは嬉しい。同じセーブデータを使ったら、いわゆる中の人バレが起きる可能性がある。というか、ただでさえウチのクラスには政井さんとか言うショコラのファンがいるんだから、用心に越したことはない。


 まずは、配信で使う用のキャラを作成するか。名前はわかりやすいようにショコラにしといて。俺は基本的に、こういうゲームでは男性キャラしか作ったことがなかった。だけど、俺はVtuberのショコラとして活動しているんだ。男性キャラクターを使ったら不自然ではないだろうか。いや、ショコラは性別を言及していないだから、男性キャラ使っても問題はない。


 けれど、ショコラの見た目はどう見ても女の子だし、女性キャラにした方がいいと思う。


 俺はカーソルを女性に合わせて決定ボタンを押そうとした。しかし、なぜか指が震えている。なにかいけないことをしているような気になる。


 ゲームのアバターで女性キャラを作る。その初めての経験に俺の度胸がついてきていない。いや、美少女に受肉しといて今更なにを言っているのだろう。って気にもなるが。それとこれとは別である。


 今の俺は完全に賀藤 琥珀という男子高校生の人格だから、いけないんだ。こうなったら、ショコラの人格を呼び起こすしかない。俺はショコラだ俺はショコラだ私はショコラです……よし、ショコラ降臨完了しました。


「では私はサキュバスなので女性を選びますね」


 なぜか誰も聞いていないし収録もしていない状況で独り言を発する。


「それでは、この女性を私の姿に似せて行きましょう。肌の色は褐色で、髪のカラーリングの調整は……こんなものでいいですかね」


 そんなこんなで、キャラクリエイトが完成した。


 そして、クリーチャースレイヤーの世界に送り込まれることになった俺のアバターのショコラ。主人公が拠点としている村の全体を映し出すカメラワーク。そこに生活している人々の様々な表情が表される。


 なんか。こういう、モブキャラにもそれぞれの生活があるみたいな世界観というか演出はいいな。


 村人に話しかけると世界観の説明をしてくれるし、自宅にある本を読むと操作方法の説明まで丁寧に書いてあった。基本的な操作の知識は大体覚えた。俺は旧作をプレイ済みだったから、すんなりと頭に入れることができた。大体の操作感はあんまり変わっていない。


 一応、マルクトさんには俺は旧作をプレイしただけで、最新作は触ってすらいないと伝えてある。マルクトさんは「別にスーパープレイを求めていないし、私がカバーするから大丈夫」と言ってくれたが、それでも最低限、足を引っ張らないだけの技量は身に付けたい。


 というわけで、早速討伐に出発だ。ある程度、ストーリーも進めて、強い装備を整えたい。このゲームは装備が重要だからな。


 俺は久しぶりにプレイするゲームに心躍らせていた。やっぱりゲームは楽しいもんだな。3Dモデリングにハマってからは、プレイする時間は減ったけれど。お小遣いもらえなくなってからは新しいの買えなくなったけど。まさか、ビジネスでゲームをする日が来るだなんて思いもしなかった。

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