第46話 お絵描きの山
Rize:しばらくメッセージに返信できません。ごめんね
師匠の正体がリゼさんだと判明した翌日。師匠からメッセージが届いた。師匠のアカウントは現在オフライン状態になっていて、そもそもログインすらしていない状態だ。師匠は忙しくて返信できない状況になることがよくある。でも、いつもは仕事で忙しいだとか、人付き合いで忙しいとか理由を書いているのに、今回はそういった文言がない。なんかいつもと違うようなむず痒さを感じる。
俺は師匠に了承した旨のメッセージを送った。師匠はオフライン状態であるため、このメッセージは既読になることはないのだが、一応形式としてだ。
さて、俺は俺でやれることをするしかない。そうだな。しばらくショコラの動画を撮ってなかったし、撮影でもするか。最近中々に面白そうなアプリを見つけたので、これで動画を撮影してみよう。
【お絵描きの山】というアプリ。数人が入れるお絵描きチャットルームだ。ゲームモードというものがあり、ランダムに選ばれた人がコンピュータから渡されたお題に沿った絵を描く。このお題は秘匿情報で、残りのメンバーは絵を元になんのお題を与えられたのかを当てるゲームである。
俺は早速、チャットルームを作り人が集まるのを待った。
管理者:ショコラさんが入室しました
待っている間ヒマなので、冒頭に入れる挨拶を今収録することにした。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日はお絵描きの山というアプリをプレイしていきたいと思います。簡単に言うとお題に沿った絵を描いて当てて貰ったり、当てたりするゲームですね。それでは、始めて行きましょう」
冒頭の挨拶が済んだところで人が集まってきた。
管理者:ナイトさんが入室しました
管理者:緋色さんが入室しました
管理者:ああああさんが入室しました
なんだ。ああああって名前は。適当にもほどがありすぎるだろ。
ショコラ:よろしくお願いします。人数が揃ったので始めますね
俺はゲームスタートボタンを押した。
最初の絵描きは、ああああさんに決定した。
「どんな絵が出て来るんでしょうか。楽しみです」
ああああさんがキャンパスに絵を描いていく。黄土色のペンでギザギザの線を描いていく。これは一体なんなのだろうか。
緋色:ライオン
画面に表示される正解の文字。回答は早い者順である。恐ろしく速い回答に、ただただ唖然とすることしかできなかった。
「え? ライオン……ああ、たてがみを書いてたんですか」
伝わるような絵を描いたああああさんと正解した緋色さんにポイントが入るという仕組みだ。
「次の絵描きさんは……緋色さんですね。今度こそあてますよ」
緋色さんがキャンパスに黄土色でギザギザを描いていく。なんだこれ既視感があるぞ。
「もしかして……」
ショコラ:ライオン
なんの反応も示さない。そりゃそうか。2連続で同じお題なわけがない。
「えー。これライオンじゃなかったらなんなんでしょう」
ギザギザのたてがみのようなものを描いたら中央に猫っぽい顔とヒゲを描く。
「いや、これ間違いなくライオンですよね? え? さっきの答え引きずってるんですか?」
続いて、なにやら十字で線を引き始めた。そして、その十字の上に丸を書こうとした瞬間。
ナイト:オズの魔法使い
画面に正解の文字が表示された。
「あー。オズの魔法使いですかー。ライオンはわかってたのに。あ、これ次に描いたのはカカシですか。あーなるほど。なるほど」
緋色さんの絵は簡略化されてはいるものの特徴はよく捉えられている。多分。この人は絵が上手いんだと思う。そういえば、Hiroさんも絵が上手いって言ってたな。あの人も緋色から名前取ったって言ってるから、案外同一人物だったりして。それはないかな。
「うぅ……まだポイント取れてないの私だけですよ。そろそろ当てたいですね。それか、私が絵描きになるか……」
俺も絵は多少は描けるレベルだ。流石に全盛期のような凄さはないけれど……
そして、次の絵描きに選ばれたのはショコラだった。画面に表示されるお題は……
【透明人間】
「ちょ、なんなんですかこのお題は。いくらなんでもひどすぎます。どういう嫌がらせなんですか。描きようがないじゃないですか」
見えないから透明人間なのに、その透明人間を描けだなんて無茶ぶりがすぎる。しかし描かなければ、当てられないで負けてしまうのだ。
俺は意を決してペンタブを取った。そして、描きこみをする。
「まずは普通の人間を描きます」
別に人間の精度にこだわる必要はない。人間であるということさえわかってくれればいい。だから、適当に棒人間でも描いておく。
緋色:棒人間
「お、とりあえず、棒人間だってことは伝わったみたいです」
次に俺が描いたのは矢印だ。普通の人間が変化してなにかになる。それを表現するために描いた。そして、次に本来なら人間の頭があるであろう部分に3本線を描いて、忽然と姿を消したような表現をする。
「お願いします。これで伝わって下さい」
ナイト:失踪
「ああ、そっちに行きましたか!?」
ああああ:サボテン
「どこをどう解釈したらこれがサボテンになるんですか!」
3本線がトゲに見えたのだろうか。でも、サボテンならもっと上手くサボテンっぽく描ける。
「ああ、もうこれ以上描きようなんてないです。誰か当ててください」
緋色:透明人間
制限時間ギリギリに緋色さんがなんとか回答をしてくれた。
「あ、危なかった。良かった。当ててもらえて」
そして、次はナイトさんの番になった。一体どういう絵を描いてくるのだろうか。
ナイトさんは四本足の謎の物体を描いてきた。顔が細長い意味不明な物体だ。ハッキリ言ってあんまり絵が上手くない。なんか馬っぽい感じがするな。とりあえず馬って書いておこうかな。
緋色:馬
しまった。緋色さんに先を越された。でも、正解判定がでない。ってことは馬じゃないんだ。馬であって馬じゃない生物。それを答えればいいんだな。
ショコラ:ロバ
ああああ:ラマ
緋色:アルパカ
それぞれが思い思いに答えていく。しかし、いずれも正解がでない。ナイトさんは焦ったのかなにやら描き足している。胴体に斑点のような物体を加えている。
「あ、これ多分あれです」
ショコラ:チーター
「ええ……違うんですか……」
そもそも目の位置がどことなく草食動物っぽいところにつけられている。これはなんなんだ。
ああああ:キリン
その文字が流れた瞬間正解と表示された。
「えぇ!? キリン!? キリンならもっと首を長く描いてくださいよ。全然特徴が捉えられてないじゃないですか」
キリンの首が長いことは最早、幼稚園児でも知っていることだ。それなのに、どうして首を長く描かなかったのか……俺には全く理解できなかった。
世の中にはとんでもない人間がいるんだ。そのことを痛感してしまった。
「さて、次でラストです。さあ、誰が絵描きになるんですか」
俺の画面に俺が絵描きになったことを表示する文字とお題が流れた。
「ぶふぉ……ちょ、ちょっとこれあまりにもひどすぎます。えっと……視聴者のみな様も考えて下さい。絶対に当たりませんから」
なんで俺が絵を描く時に限って難しいお題が出るのか。理解不能である。このアプリの制作者の罠にかかったような気分だ。
というわけで急遽視聴者参加型の問題になった。キャプチャ画面に思いきり答えが出ているけれど……そこら辺のところは編集する時の俺が上手いことやってくれるだろう。
とりあえず、書かないことには始まらない。俺は、ペットボトルを描いて、そこに水を現すラインを入れた。
緋色:ペットボトル
ああああ:水
まあ、そうくるだろうと思ってた。文字が書けないのが本当に歯がゆい。だけど、これが水だと伝わってくれたのはいい。次に俺は
ナイト:実験
緋色:理科
「あ! 惜しい! 近づいてる。けど、それをこの人たちに伝えられないのがもどかしい!」
縦線の付近に丸を描いていく。これで伝わってくれ。
ああああ:泡
泡だってことは伝わってる。だけど、もう一声。この泡の正体に踏み込んでくれ。
「あーもう時間がない。あー!」
だが、結局答えは出ないまま制限時間が過ぎてしまった。そして、画面全体に表示される文字。
【水素】
「いや、伝わりませんよこんなもの! なんで透明人間とか水素とか目に見えないものばっかりなんですか!」
最初に描いた水は水素水。次に描いたものは水の電気分解の実験。俺、がんばった方だよな……
「というわけで、お絵描きの山をやっていきました。お題運が悪すぎて泣きたくなります。それでは、今回の動画はここまでです。さよならーさよならー」
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