悪魔の胃を模した迷宮

この世にマスカと人間をちょうどいい比率で置く事で、ファントムは人間の魂を永久機関のように食べ続けようとしていたのだ。


「ところが、ロンドン中にマスカの事実が知れ渡ってしまった。人間はマスカを悪用した。こうなればロンドンの街を潰すしかない。ファントムが総攻撃をしかけたのはそういう事だね」


共存と言うものは難しいものだ。

マスカの存在を知ってしまった人間を生かしておくわけにはいかない。自分の目的を探られないためにも。

ファントムはロンドンの街を潰し、人間の記憶からも消し、無かったことにしようとした。


「ただ、ファントムとしてもイレギュラーな武器があった。それがこれさ」


これと言いながら、ルーナエは両手を広げ、真っ暗な天を仰ぐ。

リュクレーヌはその大きなジェスチャーに「これ?」と顔を顰めた。


「マスカレイドラビリンスだよ。まぁ、フランのスチームパンク銃だね。僕が作った」


「これが、ファントムにとっての脅威だという事か?」


「その通り。この空間を見た時に兄さんは『ファントムの胃の中』と言ったね。そう思うのも無理ない。『悪魔の胃』を僕が模して作った空間なんだ」


「でも、どうして悪魔の胃なんて作ったんだ?」


「当然、ファントムを倒すためだよ」


その時、リュクレーヌの頭の中で『悪魔の胃』に関する情報が歯車のように回り出す。

ファントムを倒す、悪魔の胃は、魂を、消化──


「あっ。そうか!悪魔の胃は魂を消化する……つまり、ファントムの魂をここで消し去るという事か!」


「そうだよ。僕がこの迷宮を作ったのはその為さ。ただ……ここへファントムの魂を連れてくるには条件がある」


「条件?」


「魔術『マスカレイドラビリンス』が掛けられた魂しかここには呼び出せないんだ」


この空間と同じ魔術の名前をルーナエは口にする。


「魔術?それ、どうすればいいんだ」


「すごく単純だ。例のスチームパンク銃で撃たれた者にこの魔術はかかる。僕が呪文を唱えればここに来れるんだよ」


リュクレーヌは納得した。自分は確かにあの銃で撃たれた。だから、この空間に来ることが出来たわけだ。


「だから俺は呼び出された訳か……ん?だったらもっと早く呼び出せよ!」


「出来なかったんだよ。ニセの僕……ファントムがあの部屋から出て行くまで魔術は使えないっていう結界が張ってあったからね」


「あ……」


ブラーチが念のためと言って結界を張っていた。その結界によって、ルーナエは魔術を──マスカレイドラビリンスへの呼び出しが出来なかったのだ。


「実は、ここに来た事ある人物は、兄さん以外にもいるんだ」

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