12.コールドムーン

迷宮の中

──あの時、一瞬だけ、目の前が真っ暗になった。


気づいた時には先ほどまで居た事務所の光景など面影もなく、来た事の無い場所に居た。

リュクレーヌは辺りを見回す。


暗闇に包まれ、微かな光と夜目で分かるのは、ここが崖であり、地面には大量の仮面の残骸が敷き詰められているという事。


「ここは、もしかして……」


来た事は無いが、見覚えは有った。

それは、ルーナエの部屋にあった本『悪魔の腸』に挿絵に載っていたおどろおどろしい光景と同じだ。


つまり、ここは悪魔の胃──


「違うよ。兄さん」


リュクレーヌがたどり着いた一つの結論を否定する声が暗闇の中に響く。

その声の主は先ほどまで同じく事務所に居たはずのルーナエだった。


「ルーナエ!?俺達はファントムに魂を食われたのか!?それにお前、フランを!」


ルーナエはフランを連れ去ったはずだった。それなのにどうしてこんなところに居る?

そもそも、ここが悪魔の胃であれば、ファントムに魂を食べられてしまったのか。思考が散らかったまま、リュクレーヌはルーナエの肩を掴む。

しかし、そんな兄をいなす様に、ルーナエは肩に置かれた両手を解き、小さなため息をついた。


「落ち着いて。ここはファントムの胃の中じゃないし、あれは僕じゃない。」


「どういう事だ」


「順を追って話そう。まず、ここはマスカレイドラビリンス。僕が作った迷宮だ」


「迷宮?もしかして、あの日記の最後にあった……!」


「そうだよ。僕はフランに銃を託し、ファントムに躰を奪われた後この迷宮を作った」


「迷宮って事は、出られないのか?」


「いや、出られるよ。その代わり、出るのは僕の話を聞いてからね」


「わかった……」


リュクレーヌは一度落ち着きを取り戻し、まずはこのルーナエの話を聞くことにした。

曰く、悪魔の胃にそっくりなこの場所はマスカレイドラビリンスという迷宮であった。

では、この迷宮はいったい何処にあるのだろうか。


「次に、この迷宮がどこにあるか。それはあの銃の中だ」


「自分で作った銃の中に迷宮を作ったって事か?」


「僕は自分の魂をこの銃に逃がしたんだ。バックアップみたいなものだね」


「待てよ。じゃあ、さっきまで俺と話していたあのルーナエは!」


ルーナエの魂がここにあるという事は、あのルーナエは偽物で──


「そうだよ。アレはファントムだ。」


やはりだ。二人が最初に疑った悪い予感は当たっていた。


「でもブラーチはファントムじゃないって言っていた。なんで……」


けれども、その予感を確認するためにブラーチに魂を鑑定してもらっていたはずだ。

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