主要人物の失踪

無関係のフランをこれ以上巻き込み、十字架を背負わせるような真似など言語道断。

一方、フランはと言うと俯いたまま何やら考えている。リュクレーヌの声は届いていないように。


「フラン。ここにあの時兄さんが使ったものと同じ仮面がある。これを使えば君は不死身だ」


ルーナエが懐から仮面を出す。この仮面は通常の売り物と違う、特別製だ。

通常の仮面であれば、自分自身に憑依する事は不可能。

しかし、リュクレーヌが使ったものと同じものであれば、まだ自分に憑依する事が出来る。

ルーナエは当時の仮面を持っていた。これさえあれば、フランはリュクレーヌと同じ不死身のマスカになる事が出来る。

それでも、当のフランはぼんやりとしたままだ。


「くそっ!」


「あっ!」


そんなフランの隙を見計らって、リュクレーヌはスチームパンク銃を奪った。

あとはもう、自分だけで片付ける。そう、宣言するように。

こうすれば、フランがマスカになる必要はないし、もうこれ以上彼を巻き込むことも無くなるはずだった。


「銃は俺が受け取った。これでもうフランは自由──」


「ありがとう。兄さん」


ルーナエはリュクレーヌに礼を言うと、即座にフランの腹部を殴った。


「うっ!?」


ルーナエの拳がフランのみぞおちに入り、フランは倒れこんでしまう。


「なっ!」


「でも、どうしてもフランはマスカにしなければならないんだ……」


そう言って、ルーナエは、リュクレーヌが駆けつける間もなく、フランを抱え事務所から立ち去った。


「追わなきゃ!」


クレアが事務所を出る。

だが、事務所の外へ出た瞬間彼女は驚愕した。


「そんな、二人が……消えている?」


居るはずのルーナエとフランが居ない。慎重に辺りを見回しても何処にもいない。あの速さで一瞬のうちに消えるなど絶対にありえない。

クレアは目を見張った。その時だった。


「おい、クレア!こっちも大変だ!」


「えっ!?」


事務所の方からブラーチが声をかける。

もしかして、事務所の中に居るのだろうか。クレアは事務所に戻った。

ところが、そこにはフランとルーナエはいない。

スチームパンク銃がぽつんと床に置かれているだけだった。

いや、おかしい、居るべきはずの人が居ない。


「リュクレーヌも消えた!一瞬、目を離した隙に!」


「何ですって!?」


あの一瞬のうちにリュクレーヌまで行方不明と来たものだ。

さっきまで事務所で話し合いをしていたルーナエ、フラン、リュクレーヌの三人が瞬く間に消え去った。


一体、全員何処へ行ったのか。


床に空しく置かれたスチームパンク銃だけがその行方を知っている──

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