ばら撒かれた号外

 

翌朝の礼拝堂。相変わらず大勢の信者が詰めかけている。

好都合だ。これだけ多くの人間が居れば、ミーナやテレーノ教の暴露が大々的に出来る。


「おい、屋根の上に誰かいるぞ」


「あぁ、ゴーレムだろう。俺達を守ってくれてるんだ」


リュクレーヌとフランは礼拝堂の屋根の上に居た。遥か高い屋根の上に昇るのはマスカであるリュクレーヌさえいれば簡単な事だった。

前日使っていたペストマスクを二人が被っていれば、信者はゴーレムだと勘違いしてくれる。「単純な奴らだな」とリュクレーヌは呆れたように言った。


「よし、フラン。いいぞ」


「うん。それっ!」


リュクレーヌの合図でフランは礼拝堂の屋根の上から、大量のビラをばらまいた

上空から、一枚二枚……それどころでは無い何百枚もの紙が放たれた。


「ん、何だこれ?紙?」


その数が明らかに異常であると察した信者たちは興味本位で手に取る。


「おい、何だこれ?新聞みたいだぞ」


号外と書いてある見出しがあり、写真があり、本文がある。

たった一枚にまとめた、一面だ。

写真には昨日の逢瀬の様子。


「この写真は……礼拝堂か?映っているのはミーナ様?」


「おい、どういう事だ!とんでもない事が書いてあるぞ!」


本文には、ミーナとウェスペルの会話の内容。


「皆さーん!この宗教はインチキでーす!信じてはいけませーん!」


「信じると、マスカにされてしまいます!ゴーレムの正体はマスカなんです!」


混乱する信者に対して発信するように、リュクレーヌとフランは叫ぶ。

教会の前の人だかりが、一気にざわつく。


「そんな……嘘だ!」


「信じられない……」


信者の中には狼狽え、事実を受け入れない者──


「ふざけるな!何を言ってるんだ」


「お前、頭おかしいんじゃないのか!」


怒り狂い、リュクレーヌ達を疑う者がほとんどだった。


「うーん、やっぱり簡単には信じてもらえないか」


リュクレーヌは諦めた様にペストマスクを脱ぎ捨てた。フランも同様にマスクを脱ぐ。


「どうする?リュクレーヌ」


それもそうだ。確実に決定的な証拠は写真しかない。それに写真だけではミーナとウェスペルが会っているという事しか分からない。

真面目なテレーノ教の信者たちは矛先をリュクレーヌ達に向ける。


「大丈夫、こんな事も有ろうかともう一つ証拠は持って……っ」


リュクレーヌの言葉を遮るように強い振動を伴い轟音がする。


屋根の上に誰かが来たようだ。視線を向けるとゴーレムに乗った白いワンピースの教祖──ミーナがいた。

背後にはウェスペルも居た。騒ぎを聞きつけて駆け付けたのだろう。きっとまたスクープを書かせるために。

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