選んだ道に後悔は

「じゃあ、まずはテレーノ教について調べる……って事だね」


「あぁ。幸い、ゴーレムのおかげでマスカの被害はかなり抑えられているからな」


事実、ゴーレムはマスカから人間を助けている。だが、それがリュクレーヌにとっては仇となりかねない。


「それに、ゴーレムはアマラと同じようにマスカを倒すだろ?」


「うん。それがどうしたの?」


「マスカである俺が入信できるかが分からない。入ったとして、ゴーレムに自我がなければ殺されそうになって、信者にもリンチされる未来しか見えないな」


リュクレーヌはマスカだ。マスカを倒すゴーレムに自我が無くて、リュクレーヌが襲われる可能性だって十分ある。

そもそも、入信自体が出来るのか怪しいというのだ。


自我があろうとマスカであるリュクレーヌは人間の敵なのだろうか。今まで多くの人を救ったのに?

フランが俯いているとリュクレーヌは少し寂しそうに皮肉っぽく言う。


「マスカは全人類の敵だからな。自我がある俺も含めて」


「……」


「まっ、それは俺が選んだ道だ。仕方ねぇよ。他の方法を考えよう。幸いゴーレムは人間を襲ったりはしていない。焦る事は無い」


今度は空元気のように、明るく言った。焦らなくていいと。だが、リュクレーヌの心の内はどうなのだろうか。


「後悔、してる?」


フランは、疑問を投げかける。人間を辞めてマスカになってしまった事を。

そのマスカが今や全人類の倒すべき対象となり、嫌われ者となり、自分もその対象になりかねない事。


こんな事ならばマスカにならない方が良かったと思ったりするのではないか。

だが、リュクレーヌはフランの考察とは裏腹にふっ、と一つ不敵な笑みを浮かべた。


「断然!ルーナエを守るためにはこうするしかなかった。俺に出来る事をしたまでだ」


自分の行動は弟の為に仕方のない事だった。今更後悔することなど何もないと言い放った。

それならば、もう何も言うまいとフランは空になった食器を下げて、流し台へと運んだ。

 

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