魔法の応急処置

 

リュクレーヌ達は聞き込みに、一方、ブラーチはクレアを連れて病院へと帰った。

クレアを連れた理由は二つ。匿うためと、治療の為だ。


早速、病室の診療椅子に帽子を取ったクレアを座らせて、リュクレーヌが応急手当をしたという傷を診る。

ガーゼを一旦取り、傷の近くに触れると、クレアはくすぐったいのか、片目を閉じた。


「本当にただの応急処置だな……クレア、少し両目を閉じてもらえるか?」


「あっ、はい……」


クレアは言われたとおりに両目を閉じた。

ブラーチが何かを呟く。この辺りでは聞かない言語だ。もしかしたら、以前言っていた魔術かもしれない。

目を閉じ、少し考え事をしている間に、施術は終わった。


「もう、痛みは無いか?」


「えぇ、全く……傷も無くなっている?」


「いつも世話になっているからな。サービスだ。」


微かに残っていたはずの額の痛みは嘘のように無くなり、あったはずの傷をなぞっても元通り、怪我をする前の状態に戻っていた。

これも、魔術の力なのだろうか。額に傷が残らないようにブラーチなりに気を遣ったのかもしれない。


「ありがとう……」


「礼には及ばない。それより、酷い目に遭ったんだな」


「っ……」


石をぶつけられた時の事を思い出す。軍服を見るなり、自分に向けられた罵倒と、投げつけられた石。

一人や二人ではない。何人もの群衆が自分を取り囲み、罵詈雑言をぶつけた。


最初は無視をした。それが最善だと思っていた。だが、彼らにはその態度が気に食わなかったらしく、遂には手を出したという訳だ。

クレアの頭の中で鮮明に哀しい記憶が蘇ると、気が付いた時には涙を流していた。


「おい、大丈夫か?他にどこか痛むのか?」


「違うの。傷は無くなって……平気なはずなんだけど……悔しいの、とにかく。私は、私たちは何の為に戦ってきたの?」


クレアは問う。自分達の戦っていた理由を。


「お金が欲しかったわけでも、名声がほしかったわけでも、ヒーローになりたかったわけでも無いの。ママみたいに、マスカのせいで死ぬ人がこれ以上いてほしく無い、それだけの為に戦ってきたのに」


特に見返りが欲しかったわけでもない。


「誰に感謝されなくても平気だったはずなのに、罵倒されるのはこれほどに辛いものだなんて、思ってもなかった。私、アマラになった事を初めて後悔したわ」


「後悔……」


「たった一人の過ちで、なんで私たちまでこんな目に遭わなきゃならないの?連帯責任?そんなの私たちとオクトさんの区別もつかない無関係な人たちが使う言葉じゃないわよ!どうして……」


クレアは泣き叫びながら訴える。当事者でもない人間の憂さ晴らしのために、アマラ軍はある訳ではないと言うように。

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