民衆の恐怖

すぐ傍に、マスカが居るかもしれない。マスカと戦う能力を持たない一般人にとって、その恐怖は計り知れないだろう。


「アンタだって、サーカスの猛獣が街に放たれたなんてなれば怖いだろう!」


「なるほど。それはそれは、恐ろしいですね」


「っ……あぁそうか、アンタはマスカだから怖くはないだろうな!」


分かっている。そんな事は。リュクレーヌも、マスカが人を殺すなんて事は分かっていた。

哀し気な笑顔で同調すると、市場を後にした。


「リュクレーヌ!どうしてあんな煽るような言い方をしたの!」


道中、フランはリュクレーヌを叱責するように言う。

せっかく聞き込みに協力してくれたのに、口論になってしまった。

それでもリュクレーヌの表情は打って変わって明るいものになっていた。


「まぁまぁ、いいじゃん!さて!次行くぞ!」


「えぇ……?」


気を取り直して次の目的地を目指す。


 

「マスカに会ったことありますか?」


「無いですよ!恐ろしい!」


次に向かったのは菓子屋だった。リュクレーヌがよく、クッキーを買っていた店だ。


「会ったこと無いのに、何故恐れるんですか?」


「だって、毎日のように人が襲われているじゃないですか!ほら!」


クッキー店の店主は、テーブルに新聞を広げて、叩きつけるように記事に指を差した。

『マスカ、書店を襲う』見出しには大きく書かれていた。

リュクレーヌは「なるほど」と一度頷く。


「マスカによる死人は出てないんですね」


「えぇ、これもアマラ軍の皆さんが頑張っているからです」


「頑張っている?」


「死者が出る前に、各地に駆け付けてくれるのです!」


通常、マスカに襲われたのならば最期。帰らぬ人となるだろう。

だが、アマラ軍は現場に現れた。偶然にも、付近でパトロール中だったという。


「へぇ、偶然とは言えお手柄だね」


「アマラ軍は優秀だというのに、警察は何もしない……信じられないですよ!」

今度は警察へ対する怒りを顕にする。街の治安を取り締まるのは本来、警察の役目だろう、と責めるように。記事にも、同様に書かれていた。


「なるほどな……」


もう一度納得するように、リュクレーヌは顎を触る。

もう、十分だというと、礼を言い、店から退出した。


「マスカに会った事のない人ばかりだね」


「そうだな……じゃあ、実際にマスカの事件が起きていた場所に行くか」


「あぁ、本屋さんに行くわけだね」


「早速行くぞ」


実際にマスカにあった者からの話を聞くために、二人は事件現場となった書店へと向かった。

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