彼等は探偵
嵐のような来客が去っていき、再び事務所は二人きりになった。
リュクレーヌは神妙な面持ちで俯いていた。
先ほど群衆に投げつけられた言葉を気にしているのか?とフランは恐る恐るリュクレーヌに声をかける。
すると、リュクレーヌは視線をフランの方へゆらりと向けると、「大丈夫」と言うように微笑んだ。
「……俺達は、探偵だよな」
ぽつり、と確かめるように小さく呟く。
不安という感情だけで推理などできない。
一個人の安心の為に、本来生きるべき命を消すのであれば本末転倒だろう。
当てずっぽうでスチームパンク銃を使って、フランを殺人者にする訳にもいかない。
だとすれば、先程の依頼は受けられない。探偵として当然だ。
「うん……そうだね」
フランはリュクレーヌの心中を察していた。
自分を殺人者にする訳にはいかないんだという思いも。
暫く沈黙が続いて、湿っぽい雰囲気になってしまう。
どうも、重たい空気に耐えられないリュクレーヌは、すぐさま顔を上げた。
「それにしても、どうしてここまで大量の依頼人が来たものか……俺たちが船旅に行っている間、何かあったのか?」
「うーん……あ!新聞見たら何か分かるかもよ!」
「おお!確かに!」
リュクレーヌは拳を手のひらに叩いて、船旅中に溜まっていた新聞を取り出した。
デスク一面に紙面を広げて、記事を一つ一つチェックする。
中でも一際大きく掲載されていたのは、やはり二人が解決した船旅での事件だった。
「やっぱり、この間の事件は大きく取り上げられているね」
「あぁ……他に、マスカ関係は」
「あ!これ!」
ページが捲られた途端、フランがとある記事に指を指す。
中くらいの記事で、写真などの添付資料はなく、特に目を引くものでは無かった。
だが、見出しはマスカに関わる重大な事が決まった事を伝えていた。
「マスカ……特別法可決……?」
「マスカを取り締まる規制法みたいなものだね」
「なるほどな。国をあげてマスカを撲滅させる流れになっていたわけだ」
マスカのニュースはファントムの存在が公になってからも取り上げられていた。
だが、マスカやファントムに対して政治的な動きはこれまでは特になかった。
元々ただの都市伝説だ。下手に動けば都市伝説を国が信じるのかという批判も集まりかねない。
ただ、大量のマスカが発生して事態が深刻化してきたからこそ、国もようやく重い腰を上げて、法整備をした。
国が動くとなれば、市民もいよいよマスカという存在が他国の兵器から自分自身もなりかねない恐ろしい化け物であるという認識に変わっていったのだろう。
「だから、一般の人たちがマスカのことを詳しく知っていたわけか」
「ところが、逆に不安を煽りすぎた……って感じだな。まぁ怖い事には変わりないけど」
「今までとは大違いだね……」
「都市伝説が、ここまで来るとはな」
フランの流した事実は、今や都市伝説でなく、ロンドンの街を覆いつくす話題となってしまった。
彼らが船旅に行っている間に。
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