事件は起こるべくして起きている
既に四人も死んでいる。
緊急事態という事もあって副船長のポールからは部屋から出ないようにという通達がされた。
勿論、そのお達しは船に居合わせていた名探偵と助手にも届いており、リュクレーヌとフランは部屋に居た。
フランは不安な様子でそわそわとしている。落ち着かないのか、客室内をぐるぐると歩き回ったりしていた。
「リュクレーヌ、流石にここまで殺しが続くなんておかしいよ」
一方、リュクレーヌはテーブルでぼんやりと考え事をしているようだった。
フランの声も届かない。
「リュクレーヌってば!」
「あ、あぁ。悪い。聞いていなかった」
フランはやれやれといった態度で「もう」と言った。
「この事件、何なんだろう。大富豪と船員が一人ずつ殺されているなんて……」
「まぁ、無差別殺人って訳ではないだろうな」
「僕たちが殺されていないもんね」
一番の厄介者であり、事件に足を突っ込むことで狙い易いであろう探偵とその助手。
無差別殺人であればその二人が狙われないわけが無い。
「じゃあ、資産家と船員の確執が原因?」
「さぁな。その辺は船長くらいしか関係していなさそうだけどな」
「人が死んでいるんだよ?どうしてこうも冷静でいられるんだよ」
「……死ぬべき人が死んでいるからだよ」
リュクレーヌはフランから視線を逸らして、小声で言った。
その内容にフランは「はぁ?」と半ば裏返った声を出す。
「じゃあ、何?大富豪の人達も船長もメシスさんも皆、死ぬべきだったって言いたいわけ?」
フランは感情に任せて怒鳴ってしまう。
死んでいい人間なんて居ないはずなのだから、それを平気で死ぬべきなどと言われればそれは感情的になってしまうのも無理がない。
フランの豹変した態度にリュクレーヌは困惑し、両手をおろおろと振った。
「あぁ……違う。言い方が悪かった……」
「僕の言った事とは違うの?」
「そうだよ。死ぬべきっていうのは、そうだな……あらかじめ用意されていた死って意味だよ」
フランはリュクレーヌの言っていた意味は分からなかったが、自分が彼の発言を誤解していた事だけは分かった。
「……ごめん。リュクレーヌの話を聞かせてよ」
「それはだめ」
推理ショーの依頼はきっぱりと断られる。
「けち」
「けちって……仕方がない。ヒントをやる。いいかフラン、俺達は普通の探偵じゃない」
「……うん?」
一つだけ与えられたヒントも如何にも当たり前すぎることで、フランにはピンとこなかった。
「さぁ、もう寝るぞ。明日も忙しくなる」
「えっ!ちょっと待ってよ!リュクレーヌ!」
伝えられることは伝えた。
とリュクレーヌはベッドに潜り込む。
フランが食い下がっても無駄で、彼はもうすでに夢の中へと入っていた。
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