監視と停電

呼び出されたディニーは終止不機嫌だった。


それだけではない、彼が登場するや否や、スタッフたちは疑いの目を向け、下手をすれば乱闘に発展するのではないというほどに空気はひりついていた。


これでは埒が明かない。


そこでリュクレーヌは一つ、最も確実で安全な提案をした。


「僕とフランが、一晩彼を監視しましょう」


「えっ?」


リュクレーヌ以外の全員が目を丸くした。

それはフランもだった。


「だって、そうしておけば、彼は誰の事も殺せないでしょう?」


「それはそうだけど……」


「じゃあ、決まりだな!フラン。そのまま銃は持っとけよ。何が起きるかわからないからな」


「う、うん……」


そういった事情で、リュクレーヌとフランはディニーの監視をする事になったのだ。


只今の時刻は午後十時過ぎ。

街ではスモッグに隠れる事になる満天の星空が煌々としていた。

二人は客室の外の廊下をディニーと歩く。

大柄の為歩幅は大きいがのしのしとゆっくりした歩みにテンポを合わせる。


やはりこの旅でのリュクレーヌはどこか強引だとフランはため息をついた。

ため息はうつるように、もう一つ吐かれる。

その主はディニーだった。


「全く、何故私が疑われなきゃならんのだ」


「貴方の部屋から証拠が出てしまったからです」


「証拠?」


「船長室の鍵です」


「そんなもの……真犯人が仕込んだに決まっているだろう」


「誰もそんな事できないかと……」


「あぁ……まぁ確かにその線はあるかもしれませんね……おっと!」


「うわっ!」


ぐらり。

客船は大きく揺れる。


「それにしてもよく揺れる船だな……ありゃいかん。あの副船長が舵を取っているのか?もっと、丁寧にしなきゃいかんだろう」


「あれ?アンキューラさん。貴方は航海の事はあまり詳しくないのでは?」


リュクレーヌが問いかけた時だった。

突然、バンッと大きなスパーク音を立てた後、廊下は真っ暗闇に包まれる。


「!?電気が」


「停電か!」


この状況はまずい。


どさくさに紛れてディニーが逃げてしまえばせっかく見張りを立てた意味がなくなってしまう。


「アンキューラさん!居ますか?居たら返事をしてください」


しかし、返事は無かった。


「返事が無いよ!どうしよう」


「逃げられたか?ちくしょう。明かりも何も持っていない」



成す術もないと、思った時だった。

復旧したのか、廊下の照明はチカチカと点灯し、再び光に包まれた。


「あ、点いた……!?」


「なっ!?」


返事が無いと思ったら、ディニーが倒れていた。

すぐさま二人は屈み、彼の顔を覗き込み、名前を呼ぶ。

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