事実への懺悔を
また一つ、礼拝堂に長い影が伸びる。
「無事、ファントムは確保したようだな」
状況を確かめる様に低い声が響いた。
「あ……」
フランが思わず声を漏らす。アドミラだった。
リュクレーヌは、ファントムを背負ったまま一歩前へ出て、アドミラの前へと立ちはだかる。
「あぁ、俺にかかればこんなの赤子の手をひねるより簡単だね」
「御託は結構。ブラーチ。この魔術はいつまで有効だ?」
「強力な術ですから、いくらファントムとは言え、今夜中は大丈夫でしょう」
ブラーチは淡々と説明する。
「目を覚ましても動かないように、今夜中に拘束しなければな」
「ちゃんと拘束しとけよ。俺の時みたいなザル警備したらコイツ、逃げるぜ」
リュクレーヌは、ファントムの方を一瞥して、アドミラに忠告した。
先月リュクレーヌが居た牢のように、弱い魔術をかけても意味がない。相手はファントムなのだから。というように。
「分かっている。さぁ、ファントムを引き渡してもらおうか」
アドミラは右手を前に出し、対象の引き渡しを求めた。
だが、
「待って」
凛とした、少女の声が彼らの取引を制止した。
「クレア?」
フランは声の方を向く。
声の主、クレアは強く、熱く、真っすぐに父の方を見ていた。
「その前に、リュクレーヌに、謝ってください」
要求は、リュクレーヌに対する謝罪。ただそれだけだった。
「何?そんな事……」
何故、その様な事を部下であり娘であるクレアに言われるのかアドミラには分からない。
だが、聞き返す前に、クレアの眼差しは更に強くなり、彼女は大きく息を吸った。
「貴方が彼にした仕打ちは、彼を傷つけた!たとえ彼がマスカでも、彼には心があるの!」
リュクレーヌの心を傷つけた。いや、傷つける以上に砕いてしまっていたかもしれない。
クレアは精算しようとしてもしきれない過去をせめて懺悔して欲しいと父に願う。
リュクレーヌと父の心が少しでも軽くなってくれるのなら。
そうして欲しいと思っていたから。
「おい……アレは作戦の為の嘘じゃなかったのか」
ふと、何かを疑問に思ったラルファは脇の方でフランに耳打ちをする。
「嘘じゃないですよ、ラルファさん。ファントムは先月以前のリュクレーヌの記憶を持っている。嘘をついてしまえばバレます」
フランがラルファに小声で返した。
その通りだった。
アドミラとの過去が嘘であるならば、リュクレーヌの過去を知り、情報を盗聴しているファントムには嘘がバレてしまう。
つまり、リュクレーヌの過去については、嘘偽りのない、真実だった。
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