黒い虫の正体
「何でそれを知っている?」
しかし、なぜ、ファントムがそれを知っているのだろうか?わざとらしく狼狽えて見せると、リュクレーヌはすぐさまニヤリと口角を上げた。
「……とでも言うと思ったか?」
「何?」
リュクレーヌはポケットから手のひらサイズの黒い虫のようなロボットを取り出してファントムに見せつけた。
その虫はまるで、あの天敵ともいえる黒光りの害虫を模したものだった。
例のロボットをリュクレーヌは口元に近づけ、深く息を吸う。
そして
「わっ!」
「!?」
割れんばかりの大声を出すと、ファントムは顔を顰め、耳当てを抑えた。
「お前が、これを使って事務所を盗聴していたのは知っていたよ。普段つけていない耳当てみたいなやつも、盗聴器からの音を聴くもんだろ?」
事務所に出た害虫の正体はファントムお手製の盗聴器。
リュクレーヌの大嫌いな見た目にしておけば、まじまじと調べられる事も無いだろう、と考えて作られたものだ。
だが毎日暇つぶしも兼ね隅々まで掃除された事務所内に害虫が出る物だろうか。という疑問。
そして、不自然な斑点がリュクレーヌに疑いを抱かせた。
以前虫の形をしたポストが飛んで行ったのも、ファントムの入れ知恵だとしたら、答えにたどり着くのはそう、難儀では無かった。
「へぇ。気づいていたんだ……それで、また助手くんを騙して喧嘩して一人で僕の元に向かったって訳?」
「……」
「助手君もかわいそうだよね。君の嘘にいっつも振り回されて。流石に今回は愛想が尽きたんじゃないの?」
だが、作戦はフランとの仲たがいに繋がってしまった。
ファントムは嫌味っぽく指摘する。
「ま。僕としては君たちが引き裂かれてくれると嬉しいんだけど」
「そいつは、残念だったな」
黙り込んでいたリュクレーヌは余裕綽々の笑顔を見せた。
「フランには最初から作戦だと伝えている」
「!?事務所はずっと盗聴していた!そんなタイミング……」
ないはずだ。会話もしないで?不自然に筆談などすれば、紙とペンの音で察することが出来る。
どうやって、ごく自然にフランに作戦を伝える事が出来たのか。
「給与明細だよ。明細に書いておいたんだ。この事務所が盗聴されている事と、自分がおかしな言動をしても盗聴を利用した作戦だから自然にふるまえ、そして作戦は日々の報告書の日誌に書いておく……ってな」
「なるほどね。だから助手君は給与明細を見た時に一度聞き返したのか」
「まぁ、そうなるだろうと思ったからボーナスも出しておいたけどな」
給与明細をみたフランは大層驚いただろう。
だが、このまま盗聴の事は利用してしまおうという作戦の為、フランもまた自然にふるまおうとしていた。
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