憎しみの先にある諦め

事は理解した。だが、納得はいっていない。

しかし、そんなルーメンの事など知る由もないとアドミラは話を続けた。


「貴様の様な化け物が出来るのはそれくらいしかないだろう」


「嫌だと言ったら?」


「言わせない。これは命令だ」


「それでも!」


ルーメンが反論終えようとしたその時、脳天に酷い衝撃を受ける。


「っ!」


アドミラが、牢の隙間から脚を入り込ませて、ルーメンの頭を踏みつけたのだ。


「黙れ。貴様の弟のせいで何人もの命が亡くなっているんだ」


「あっ……ぐ……」


まるで、殺したくても殺せない、強烈な恨み、憎しみを持つように、アドミラは踏みつける力を強くする。

そして、吐き捨てる様に言いつけた。


「命令だ。マスカを捕らえて、人間を守れ」


「……」


ルーメンは諦めた。

断る事は、もうできないと分かっていたから。


弟の犯した罪は重いものだった。それを償えるのであれば──

 


それからルーメンの身元はアマラ軍に引き取られ、軍の幽閉施設に監禁された。

刑務所に居た時と一つだけ違うのは、実験を手伝う事になったという事だけだった。


毎日、銃弾を撃ち込まれる機械を見るだけ。その機械が人を殺しそうになったら、止める。


危険が伴う作業だ。

ルーメンの躰にはいくつもの生傷が刻まれる。


ある日、ブラーチが面会に来た。事情を知っている数少ない人間という事もあり、簡単に牢へと案内してはもらえた。

が、ブラーチが見たルーメンの姿は、刑務所に居た時よりも酷くやつれ、生気がない。


ふと、腕に血が流れているのを見つけてしまった。


「大丈夫か?怪我をしているじゃないか」


「大丈夫だよ……」


「いいから腕を出せ。手当してやる」


ブラーチはそう言って、鞄から包帯を取り出しルーメンの腕に巻き付けた。


「どうせ……死なないし」


「……死ねない、の間違いじゃないのか」


核心をつくようなブラーチの指摘に、ルーメンは表情を歪ませる。


「そうだな……できる事なら、こんな人生死んだ方がマシだよ」


「何故だ」


「毎日毎日捕虜の監視してるんだけどさ、人間の中にはやりすぎだろというくらいにマスカを虐げる……拷問みたいな事をしてから殺す奴もいる」


マスカは人間に似せた敵国の兵器。

つまりただの機械だからと、自分達の敵であるマスカを徹底的に虐待する者も居た。

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