不死身の盾

ルーメン自身、自分の存在価値は、もうそれしかないとも思えていた。


「……それは無理だな」


「無理?」


「君は自分自身に憑依しているマスカだろ。この手紙には、乖離を起こしたマスカにしか効かないと書いてあるんだ」


ルーナエの示す討伐方法は乖離を起こしたマスカの為のものだ。

つまり、乖離を起こさないルーナエは対象外である。


「……じゃあどうすれば!」


「君にはアマラ軍に行ってもらう」


重低音の声が牢に響く。声の方向を二人は見た。

そこには、顔に傷を負った男が居た。どうやらブラーチはこの男を知っているようで、一度礼をする。


「警視……」


男はアドミラといった。いや、それよりも、今ルーナエが気になるのは、彼の口から出た自分の進路だ。


「アマラ軍……?って、なんだ?」


「アマラ軍……この手紙にあるマスカを殺す存在、アマラによって編成された軍だ」


アマラというのはマスカと戦う兵士の事で、その軍を新設する。

状況は分かった。

だが、討伐対象のマスカであるルーナエが所属をして行う仕事が有るのだろうか?


「俺がそこに入って何をするんだよ」


「貴様には戦場の化け物を捕虜として捕らえてもらう。捕虜も貴様の身元も軍で極秘に拘束する。」


「マスカを捕虜に?どうしてそんな事を」


「先ほどの手紙の内容を検証するためだ」


アドミラのいう手紙の検証。

それは、罠だと疑っていた討伐方法の確認を、実験によって確かめるという事だった。


つまり捕虜となるマスカは──


「実験体……って事、か?」


「そうだ」


討伐方法の確認のための実験体。馬鹿な。もしも手紙がファントムの罠だとしたら、大勢の犠牲が出るはずだ。


そんな事をする気なのか?とルーメンは歯ぎしりをして、アドミラの方をぎろりと睨みつけた。


「何を考えている!危ないだろ!殺されるかも──」


「そうならない為に、君がいるんだろう」


「……?」


意味が分からなかった。自分の仕事は、何か。ますます疑問はアリジゴクのように飲み込まれていく。

アドミラは困惑するルーメンを見ると苛ついたようにため息をついた。


「まだ分からないか。君は不死身。人間に危険が及ばないように命を張れ」


「!」


本質を簡潔に告げられて、ようやく、理解した。


「つまり、人間の盾になれ、と」


「そうだ。あぁ、貴様には張る命も無かったな」


「っ……」


確かに、その通りだ。人命に危険が及ぶマスカ討伐の検証。


だが、そのリスクを全く負わないものが一人だけいる。


不死身である、ルーメンだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る