弟からの手紙
それから三年の月日が経った。
警察が何やら騒がしかった。騒ぎはルーメンの耳にも入っていて、何が起きたのだろうかと気にはしていた。
すると、翌日、一人の白衣と眼鏡の人物がルーメンの牢へと訪問した。
その人は、ルーメンの姿を見ると、目を丸くした。
「本当にいたんだな」
「アンタ、誰……?」
「初めまして。私はブラーチ・スコティニア。ここの監察医だ」
「医者?……何の用だよ」
警官や看守が来るのであればまだ分かる。監察医がわざわざこんな所まではるばる訪問した理由が分からない。
ブラーチは少し汚れた紙切れを取り出し、ルーメンに見せた。
「実は、数か月前、私の元に、不思議な手紙が送られてきたんだ。君の弟から」
「ルーナエが!」
弟の存在を知っている者が居るとは思わなかった。今度はルーメンが驚く。
「知っているんだな」
「……それが、どうしたんだよ」
「内容の確認だ。これがただの悪戯かどうか。兄である君に確かめてもらいたくてな」
そう言って、ブラーチは牢の中のルーメンへと手紙を渡した。ルーメンは二つ折りにされた紙切れを開き、中の文章を眺める。
そこには、ルーナエがルーメンに憧れ、転生するためにマスカを作った事、十五歳の誕生日の夜、ルーナエがファントムに騙されている事を知って、ルーメンがマスカになってしまった事。
そして、マスカという化け物がどういう末路を辿り、どうやって討伐すれば良いか、ルーナエの筆跡で記されていた。
「……ほぼ、合っている」
「ほぼ?」
「俺とルーナエの事は合っている。けど、このマスカの倒し方。これについて俺は知らない……だから」
「なるほど。ファントムの罠かもしれないという訳か」
ルーナエの躰はファントムに取り憑かれている。
手紙の差出人はルーナエ。
つまり、ファントムがわざと嘘の討伐方法を教えて、人間に不利益をはたらくよう仕向けている可能性もある。
「だけど……やってみる価値はあると思う」
それでも、ルーメンはこの手紙がもし本当にルーナエによって書かれたものなら、この手段しかマスカから逃れる方法は無いようにも感じたのだ。
「無茶な。どうやって試す?」
「俺を実験体に使えばいいだろ」
全てを諦め、皮肉を含んだようにルーメンは提案した。
ブラーチは、自信の命を擲つような発言に、ひどく驚き、すぐさま悲しそうな表情になった。
「どうして……」
「俺が、マスカだからだよ」
自分がルーナエのいう討伐方法によって犠牲になれば、それは大義のためとなるだろう。
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