顔見知り

アマラ軍の制服を着ている。なるほど、クレアの父も軍の関係者だったのかとフランは納得した。

胸に、誇らしく輝く勲章やバッジはクレアの物よりも多い。


顔を見ようと、フランは顔を上げる。その男の顔には、傷が入っていた。


「あっ!貴方は!」


この顔は覚えている。

先月リュクレーヌがアマラ軍に捕らえられた時に、会った人物だ。

すかさず、リュクレーヌは、驚いたフランの方を向いて声をかける。


「フラン、知っているのか?」


「リュクレーヌが幽閉されている時に、案内してくれた人なんだ」


本人も否定をしない。

つまり、あの時フランが会った人物は正真正銘クレアの父であった。


ガーディアンだという事で、深くは素性を聞き出せ無かったため、今ここで初めて名前を知る事になるだろう。


「アマラ軍ガーディアン司令。アドミラ・スティノモスだ」


アドミラは最低限の紹介をする。

ガーディアンの司令。つまり、アマラ軍のトップに君臨する人物だった。


そんな偉い人と会っていたのか。とフランは今になって慌てだした。


だが、リュクレーヌは、と言うと、依頼人であるアドミラにずかずかと近づいて声をかけた。


「へぇ、アンタ。自分の娘までガーディアンにして傍に置いたって訳か」


「えっ!リュクレーヌもパパを知っているの?」


「まぁな」


クレアが驚愕した。

フランだけではなく、リュクレーヌもアドミラの事を知っていた。


それもアンタ呼ばわりまでする程だ。何か、深い因縁でもあるのだろうか。


「なるほど。アンタが脅迫されたって訳か。で、どの面下げて護衛の依頼なんてするんだ?」


リュクレーヌはどこか挑発的な態度であった。

その心の奥底に、ぐつぐつと煮えたぎる溶岩の様なものを感じさせるオーラを放つ。


だが、依頼人のアドミラもまた、リュクレーヌの態度には臆せず、淡々と話を続けた。


「知っているなら話は早いな。勿論、この件は受けてもらう」


「生憎、この通り手錠を掛けられていましてね。現在休業中……」


リュクレーヌとフランはラルファによって互いの腕を拘束されていた。

これでは依頼どころではない。


依頼を断る事情を説明しようとした矢先、アドミラは携えていたグラース銃を取り出す。


次の瞬間、「ふん」と声を出して銃を一振りすると、手錠の鎖は千切れてしまった。


「……あっ」


思わず、フランから声が漏れる。二人を繋いでいた鎖が切れた事は本来喜ぶべきことなのだが、有無を言わせないアドミラの態度に緊張が走る。


「これは依頼ではない。命令だ。」


「っ……」

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