区別をつけるには

「そう。例えば……リュクレーヌ。最後に食べた僕の手料理は?」


『トマトとベーコンのオムレツ』


「……じゃあ、その前の晩御飯は?」


『ローストビーフ丼』


クイズと言っても、それはまるで頭の体操みたいな内容の問題だった。


「さっきから食べ物の問いばかりじゃない」


「それくらいしか思い浮かばなくて……」


捻りの無いクイズにやれやれという表情のクレア。

ブラーチはため息をつく。


「仕方ないな……おい、リュクレーヌ。私が最初にお前に貸した本は?」


『ブラーチが俺に本を貸してくれた事はない』


「カマをかけても駄目か」


そこで、あえてひっかけ問題と言える内容の問いを投げかけたが、見事にかわされた。


「記憶まで全く同じなのか……?」


本物のリュクレーヌしか知らないはずの事を知っている。

そこから導き出されるのは、ファントムとリュクレーヌが同じ記憶を持っているという事だ。


「恐らく、ファントムがリュクレーヌの記憶を共有したんだろう」


「そんな事が出来るの?」


「あぁ。ファントムはマスカの記憶にアクセスする事が出来る」


「だから、過去の記憶を聞いても同じ答えしか返ってこないのか……」


記憶まで同じと来たらこの作戦は完全に無効だ。

 


牢を後にして、本部の待合室にて呆気ない作戦の失敗に一同ため息をつく。


「どうにかならないのか!フラン!」


オクトは強い口調で言う。犯人が二人になりました。


「……そうですね」


万事休す。

だが、どうにか突破口が無いものかとフランは考えた。


共有されたのは、過去の記憶だけだ。

裏を返せば、過去の記憶以外は共有されていない。


記憶以外の部分からリュクレーヌである証明をする方法があれば道は開ける。


「何か、策があるの?」


クレアが黙々と考え込むフランに尋ねた。

まるで、リュクレーヌに訊く時と同じように。


「一つだけ、心当たりがあります」


フランは、残された希望を小さく呟いた。


──弟を守りたい


リュクレーヌの心の底に眠っていた望み。それを逆手に取れば、ファントムとの区別をつけることが出来る。


そのためには──


「まずは、この街の皆をどこか広い所……そうだな、噴水のある広場に集めてください。」


「人を?」


「えぇ、リュクレーヌとファントムの区別は公にして行うべきです」


観衆を集めてファントムとリュクレーヌの区別をつける。


「いいのか?人を集めて」


それはつまりファントムの存在を公に晒す事になってしまう。

だが、そのリスクを背負ってまで、やらなければならない事だった。


「街の人はリュクレーヌが僕を殺したと思っているからみんなの前で無実を証明する必要があるんだ」


「なるほど」


リュクレーヌの無実がたとえ身内で証明されたところで、街の反応は変わらない。


殺人犯なのに街に居ると白い目を向けられる事が目に見えていた。

だとすれば彼の無実は周知のものにしなければならない。


「約束を、破っちゃうことにはなるけどね」


尤も、彼との「ファントムのことは秘密」という最初にした約束を破棄する事に

なってしまうが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る