探偵の望み

 

初めて語られる、マスカになってしまったいきさつ。

確かに、弟を守るためのただ一つ残された手段だった。


「その後、俺は警察に弟を殺しかけたと自首をした」


「どうしてそんな事を?」


「刑務所に入るためだよ。家族や、ルーナエ……ファントムとの接触を避けるため」


リュクレーヌは自ら身を拘束されることによって、不審な人物との接触を控える事を選んだ。


「自分の人生を……捨ててまで」


「ファントムを倒さなきゃならないのは、俺のせいでルーナエが狂っちまったからだ。自分でケリをつけたい」


「……」


──弟がファントムと契約をしてしまったのは自分のせいだ。

リュクレーヌの中には自責の念があった。


この世にマスカという兵器を作ってしまう原因となったのが、自分への妬みであったから。


「さて、俺から話せることはこれで終わりだな」


マスカになった理由と戦う理由聞きたいことはすべて聞き出した。


だがしかし、フランの心の中には一つだけどうしても引っかかる部分がある。


「あのさ……最後に一つだけ、いい?」


「あぁ、なんだ?」


これだけは、確認しておきたい。訊くしかない。とフランは切り出した。


「リュクレーヌはさ、弟さんが生んだマスカに対して責任を取るために戦っている、って言ったけど……」


マスカに関する責任を背負うリュクレーヌ。だが、そんなものも関係なく、純粋に──


「リュクレーヌが、望んでいることは?何?」


望みは何か──同じ事を、自分に問われた時のように、フランは訊いた。

優しいのに、強く、真剣な双眼がリュクレーヌに向く。

一瞬、ハッとしたリュクレーヌはすぐ俯いた。


「俺の……望みか」


まさか、自分が訊いたことをそのままフランに尋ねられるとは思っていなかった。

責任なんかじゃなくて、リュクレーヌが自ら望んで闘う理由があるはずだ。


人に望みを訊いたからには、きっと、自分にも望みがあるのだろうと、フランには分かっていたのかもしれない。


リュクレーヌは顔を上げて、真っすぐフランの方を向く。


「……弟を……ルーナエを、助けたい!」


ファントムの人質となってしまった弟、ルーナエを救いたい。

それがリュクレーヌの──ルーメンの望みだった。


望みを受け取ったフランは、どこかスッキリとした表情で、「分かったよ」と言いながら微笑んだ。


「じゃあまずは、リュクレーヌが無実なのを証明しなきゃね」


だとすれば、このままファントムの思い通りにさせてはいけない。


まずはリュクレーヌが無実であり、真犯人がファントムである事を証明する必要があった。


でも、大丈夫。フランには自信があった。


リュクレーヌは無実だと、確信したから。

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