目覚めと伝言
◆
「……ん?」
「フラン!」
フランが目を覚ますと、視界には泣きそうな少女が居た。
「クレア……?ブラーチさんも」
辺りを見渡す。
今度は見覚えがある、ブラーチの病院の一室だ。
病室に居たのは幼馴染と、医者の二人だけ。
先ほどまで夢で見ていた男はやはり居ない。
やはりあれは、現実ではなく夢だったという事か。
「そっか、僕、また眠っていたんだね」
「いや、お前は死にかけていた。心臓を刺されてな」
ブラーチはきっぱりと否定する。
心臓を刺された。
意識を手放してしまう前の光景が事実であった事が付きつけられる。
──ファントムに殺されかけたという事実が。
「……やっぱり、本当だったんだ」
「幸い、急所は外れてみたいだがな」
「本当に……無事でよかった……!」
クレアは泣きながらフランの肩を抱く。
「……そっか」
よかった。無事に生きていた。
良かったはずだ。だが、フランの心はどこか曇っていた。
リュクレーヌが居ない。
今、一番話がしたい人物の行方が分からないのだ。
心中複雑そうなフランを見て、ブラーチは口を開いた。
「そうだ。伝言を、一つ預かっている」
「伝言?誰から」
わざわざ、伝えるのには理由がある。
「リュクレーヌ、からだ」
その相手が、フランが今一番話をしたいはずの人だったから。
「っ……!」
まるで心を見透かされたようで、フランは小さく声を漏らした。
それでも、ブラーチは淡々とリュクレーヌが今、どういう状況に居るのかを説明し始める。
「奴はお前を刺した罪で拘束されている。だが、フランに面会に来てほしいと言っているみたいだ」
「面会……」
リュクレーヌ自身がフランとの面会を望んでいる。
フランの額から、じわりと汗がにじむ。
「あいつが刺したと思っているか?」
ブラーチがいつもよりも柔らかい声で尋ねる。
あの時、自分を刺したのは──
「……リュクレーヌは、そんな事しない」
リュクレーヌではないはずだ。
人間であろうと、マスカであろうと、リュクレーヌ・モントディルーナが自分を殺すことなどありえない。
フランは確信していた。
もちろん、精神論だけの都合の良い解釈などではなく、根拠もあった。
春に花畑で自分たちはファントムに遭遇している。
リュクレーヌもその場に居た。二人は別の個体だった。
つまり、自分を殺そうとしたファントムと、リュクレーヌは別人である。
「僕も……話が聴きたい!」
だが、謎も残っている。
リュクレーヌとファントムが別人だとしても、なぜ、彼らは瓜二つなのか。
そして、リュクレーヌがマスカだとして、何故乖離が起きていないのか。
その謎を明かす為には、リュクレーヌに聞くしかない。
フランは、出かける支度を始めた。
「リュクレーヌが囚われているのはアマラ軍本部の地下牢だ」
「アマラ軍?どうしてそんな所に」
殺人事件の容疑者なら、警察に拘束されるものでは無いのか。
その理由はクレアがそっと教えた。
「ファントムの正体だって疑いがかかっているからよ」
「あ……そっか」
リュクレーヌはマスカである。
その上、ファントムだと疑われているのであれば、警察よりもアマラ軍で身を捕らえておく方が安全だろう。
「とにかく、行くしかないよね」
だが、この際場所などどうでもいい。
フランはリボンタイを結ぶと、病院を出た。
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