強制乖離

次の瞬間、カレンとマリーの身体はぶくぶくと膨らみ、あっという間に破裂する。


「いやああああああっ!!!!」


「うわぁぁぁっっ!」


マスカを知らない者たちの叫び声。何があったのか状況が分からない。

突然少女たちは巨大な機械仕掛けの化け物へと姿を変えた。


間違いない──乖離だ。


「なんで!?」


「まだ一ヶ月は経っていないだろ!」


彼女たちがマスカになったのは二週間前の事。

乖離が起きるタイムリミットの一ヶ月まで半分もあった。


なのに、何故──


「乖離のタイミングなんて、こっちの都合でどうにかなるんだよ」


答えは、全ての元凶によって明かされる。機械の様なふざけた声の主が姿を現した。


アメリアを騙し、仮面を売りつけ、双子をマスカへとした張本人──


「ファントム!」


「やぁ、二人とも久しぶり」


ファントムは二人との再会を喜ぶように友好的に手を振る。

仮面で表情は隠れているが、きっとその下は嗤っているのだろう。


「おたくの助手君が困っているみたいだから、ボクが直々に乖離してやったんだ」

「っ……」


フランは躊躇していた。

自ら望まずにマスカへとされてしまった双子を、何も知らないまま乖離させて良いものかと。


いずれは決断していただろう。


だが、そうなる前に、ファントムが彼女たちに手を下し、乖離のタイムリミットを早めてしまったのだ。


「未成熟の状態で乖離させられちゃうと弱いから、ボクの魔術で成熟を早めて完全な状態で乖離させたって訳!」


ファントムには彼女らを乖離させる明確な目的があった。


フランの銃によって、自我をもったまま乖離させるマスカと、ファントムの手によって乖離させられ自我を失ったマスカ。


強いのは後者の方だった。

自我を失っている分、余計な事を考えたりすること無く、躊躇なく人を殺す。

自分の意のままに、殺人をするだけの従順な玩具の方が、ファントムとしても使い勝手がいいと判断したのだ。


兎にも角にも、乖離が起こってしまった。

この事実はもう変える事も無かったことにすることも出来ない。


「……フラン、もう戦うしかない」


「っ、分かった……」


だとすれば、戦うしかない。


戦って、彼女らの魂をファントムから解放する。


それしかフランにはできないのだった。


「果たして、ただのアマラ一人で敵うかな?」


ファントムは煽りながら指をパチンと鳴らす。


その瞬間、マリーとカレンだったマスカから生えている何本もの砲口がフランへと向き、火炎とともに砲弾を放った。


「っ!うわああああっ!」


「フラン!」


何とか避けようとするのが精いっぱいだった。

幸い直撃は免れたがフランの体には痛々しい傷が刻まれた。


今までのマスカとは違う。

通常、アマラ軍は軍隊だけあって、チームでマスカと戦う。


フランがこれまで一人で戦えたのは未成熟のまま乖離したマスカだったからだ。

しかし今回は成熟したマスカが二体。


本来、一人で戦う相手ではない。


無謀とも呼べる状況だ。

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