同情と動機

「けどね!この間ねマリーが永遠に生きていられる方法を教えてくれた人がいたの!」


きっと、それを教えたのが仲介人だ。

そいつがファントムを呼び出し、彼女たちをマスカにした。


フランは、その人物の名前を気候とした。


「それは誰?」


「それは秘密ー!」


どうやらこの双子は口が堅いらしい。

相変わらず、仲介人の情報は秘密のようだ。


「フラン、焦っても駄目だ」


「だって……」


リュクレーヌは、人物に関する質問は無駄だと思い、それ以外質問を投げかける。


「じゃあ、マリーちゃん。その方法ってやつはどんな方法だ?」


「えっとね、お月様に入れ替わりたいって願うといいよって教えてもらった」


そして、ファントムを呼び出した。理にかなっている。


「それでね、飲み物を貰ったの!」


「飲み物?」


「うん、苦い飲み物を飲んで寝ちゃったんだけど、起きたらカレンと入れ替わってたの!」


飲み物を飲んだのは入れ替わる直前。

つまりマスカになる直前という事か。

彼女たちは苦い飲み物という毒で命を落とし、マスカへとなった。


飲み物を渡した人物が仲介人だとしても、その名前を聞いたところでまた「秘密!」と返ってくるのだろう。


だとしたら──


「じゃあ、その人はどうしてそんな事をしたんだ?」


動機。

そこから犯人の人物に繋がるヒントは無いか?リュクレーヌは食い下がる。

マリーの瞳から光が消える。

そして、くらい面持ちでこう答えた。


「……私達が、可哀そうだったからだよ」


「可哀そう?」


「カレンは家で一人ぼっち。お父さんとお母さんにも無視されて、マリーは病気で苦しんでいて……どっちもかわいそうだからって」


カレンとマリー。

無視と私物化。

どちらも虐待を受けているも同然の状況に同情した。それが仲介人の動機だと言う。


「そうか……」


これ以上は訊くのが酷だ、と感じたのか、はたまた仲介人が分かったのか。

リュクレーヌは「ありがとう」と頭を下げて、聞き込みを終える事にした。

 


「動機が、かわいそうだからって……そんなの、一ヶ月経ったらもっとかわいそうになるのに……」


乖離。マスカになれば魂は囚われ、一ヶ月後にはファントムに私物化されてしまう。

フランには仲介人の心情は矛盾していると感じた。


「いや、ファントムがわざわざ乖離の説明までしているとは思えない」


マスカをとにかく増やしたいファントムが、契約をふいにしてしまう行為をするか?とリュクレーヌは指摘した。


ファントムという悪魔はそういう奴だと。


フランも思い出す。

自分の父に仮面を撃った時のファントムは何も説明をしなかった。


その先にある悲劇を。

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