致死量の注射

「スコッチ先生!無事ですか!」


二人はマリーの病室へと駆けつける。

乖離が起きていたら、既に命が奪われているかもしれない。


「……!?」


だが、そこにはマリーもスコッチも居なかった。


目にしたのは、看護師アメリアに、マリーの母アマリリスが取り押さえられている光景だった。


「あぁ!探偵さん。マリーちゃんの容態が急変したんです!」


アメリアは二人に気づき、状況を説明する。マリーの事は分かった。


それより──


「どうしてアマリリスさんが取り押さえられて……」


この状況が分からない。


「マリーちゃん、この人に毒を注射されたんです」


「毒だと!?」


確かに、アマリリスの手元には注射器があった。


曰く、注射器の中に入った毒に侵されてマリーの容態は急変した。

フランは「どうして……」と呟く。


「何よ!しょうがないじゃない!マリーが元気なら、こうするしかないのよ!」


アマリリスは暴れながら叫んだ。


なるほど、電話の時暴れていたのはマリーではなくアマリリスだったのか。

リュクレーヌはため息をついて、もう一人行方が分からない人物の居場所を訊く。


「それで、スコッチ先生は……」


「マリーちゃんの処置をしているところです」


納得すると、ドアの方から、当のスコッチが現れた。

すると、アメリアが駆けつける。


「院長先生!マリーちゃんは……」


「……この通り、元気ですよ」


マリーの容態を心配するが、本人は、スコッチに促され、背後からひょっこりと顔を出した。


「あれー?みんなどうしたの?」


一人で歩いて、会話もできる。

そして無邪気な笑顔。毒で苦しんでいたのが嘘かのように。


「っ!」


致死量の何倍もの毒が打たれていたはずなのに、なぜこの患者は生きているんだとスコッチは不気味に思っていた。


マリーはマスカだ。

九十九パーセントの可能性が百パーセントの確信へと変わる。


こんな小さな子が、と悔しそうなフランに対し、同じく悔しそうな表情を見せたのはアマリリスだった。


「……なんでなのよ!どうして生きてるの!」


「アマリリスさん!落ち着いて!」


毒を投与した犯人、アマリリスはマリーを殺す気だった。それでも死なない娘に腹を立てた。


「ママ?……なんで怒ってるの?」

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