院長からのSOS

翌朝。まだ日も昇って間もない時間だった。

ジリリリンと事務所の電話が鳴る。


リュクレーヌは寝室から出て、眠い目をこすりながら電話を取る。


「はい、ルーナたんて……」


「リュクレーヌさん!スコッチです!大変でなんです!」


電話の主はスコッチだった。焦りながらSOSを求める電話だ。


「スコッチ先生?どうしました?」


「それがマリーちゃんが……暴れないで!うっ、うわぁぁぁぁっ!」


用件を聞く前に、スコッチの断末魔ともいえる叫び声と共に電話は切れてしまった。


「!?もしもし!スコッチさん!?もしもし!」


「……どうしたの、リュクレーヌ?大きい声出して」


リュクレーヌも慌てて大声で安否を確認するが、電話は既に切れている。

そんな彼の声を聞いて目を覚ましたのか、フランも寝室から事務所に出てきた。


「フラン、支度をするんだ」


「え?どこか行くの?」


「昨日の病院だ。乖離が起きたかもしれない」


「!」


電話の様子から、マリーが暴れて、スコッチを襲ったと見受けられる。

だとするとマリーが乖離をしてしまったのかもしれない。


「ほら、急げ!」


「う……うん!」


二人は急いで事務所を出た。

レンガ通りに出て、ふとフランは疑問を投げかける。


「でも、どうやって病院まで行くの?」


交通手段。昨日は馬車を使ったが、今日は手配をする時間すらない。


「決まっている。馬だよ」


そう言って、リュクレーヌは近くに停まっていた運送用の馬車の馬を拝借する。


「あっ!」


馬主が気づいて声を上げた。だが、もう遅い。

リュクレーヌは馬に跨って、手綱を取った。


「ちょっとリュクレーヌ!」


「早く乗れ!」


「こら!何を勝手に!俺の馬だぞ!」


「わわっ!緊急事態なんです!ちゃんと返しますからー!」


馬主の叫び声も空しく、馬はけたたましく鳴き声を上げ、出発の合図をする。


「しっかりつかまってろ」


そうして、ロンドンの街を駆け抜ける。

昨日行った病院の方へと馬を走らせた。


そのスピードは馬車の何倍もあり最新鋭の乗り物くらいに早いのではないかと思われる。

これなら昨日の半分くらいの時間でつくのではと思っていた。

丘へと差し掛かると、あまりにも荒い運転にフランは苦言を呈した。


「ちょっとまって!速い、速い!怖い!酔う!」


「じゃあ、遠くの景色でも見とけ!」


「そういう問題!?」


「急ぐぞ!」


リュクレーヌは馬に鞭を入れる。更に速度を増して丘を駆け上がった。


「うわーーーーー!」


そして、フランの叫び声は、山びこのように響いた。

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