母親の正体

「まぁまぁ、アメリアさん。容態も安定していることだし、ね?」


「ほら、院長先生だってこう言ってるじゃない!」


院長のお赦しもあってか、女性は更に強気な態度をアメリアに向けた。


すると、ふと、フランは状況が分からず置いてきぼりになったリュクレーヌに耳打ちをした。


「リュクレーヌ。僕この人たちどこかで見た事ある……」


「え?先生。この人たちは?」


フランの指摘に、彼女たちが何者かを聞くことにした。


「マリーちゃんの両親です。」


案の定。マリーがママと言っていたわけだ。

リュクレーヌが納得すると、今度はフランが「あっ!」と大きな声を出した。


「思い出した!新聞に載ってた!難病の娘を持つ母だって」


病魔と別れる手段は死しかない、悲劇の少女。そういった見出しの新聞記事を、つい先日フランは読んだ。

取材に応じていた、少女の母として取り上げられていた人物だと、フランは気づいた。


すると、女性は得意気に名乗り出した。


「そうよ!私はアマリリス・ロードデン!坊や記事を見てくれたの?」


「ぼ、坊や……えぇ、まぁ」


何度目かの子供扱いと、アマリリスの勢いに、フランは苦笑いで答えるしかなかった。


「あ、夫のダフニーです」


遠慮気味に、父親の方も自己紹介をする。

そして、アマリリスは突然泣きそうな顔をして自分の境遇を語り出した。


「私達、とても大変なの……たった一人の娘が難病に侵されて……」


「でも、その難病とやらは治ったんだろ?」


スコッチの話ではそうだ。大先生が言う事が違うのか?とリュクレーヌが指摘をすると、アマリリスは烈火の如く怒り狂った。


「何を言ってるの!マリーはね!子供なのよ!すぐに治る訳ないじゃない!病気は怖いの!まだまだ入院していないと駄目なの!」


すごい剣幕だ。

まるで、マリーが病人でなければならないかのように。


「リュクレーヌ!それ言っちゃまずいよ」


「事実だろ。なぁ、スコッチ先生?」


「えぇ、まぁ。一週間ほどずっと容態は安定して、嘘みたいに元気ですからね。」


流石に地雷を踏んでしまったのだろう、とフランがリュクレーヌの方に訴えかける。


が、リュクレーヌは動じない。それどころか、スコッチまで、リュクレーヌと同様。マリーの容態は安定していると肯定した。


「検査の結果も良いですし、退院の手続きを……」


スコッチが言いかけると、アマリリスが壁を叩き、言葉を遮る。


「退院!?冗談じゃないわ!マリーは病気なの!」


「検査で異常がないのです!完治したと……」


「検査の結果が良いって、たった二週間でしょ!これまでどれだけ辛かったか」


泣きそうになりながらヒステリックにアマリリスは叫ぶ。


その様子を心配そうにマリーは見つめ、何かを言いたいように呟いた。


「ママ、マリーは……」


「かわいそうに、マリーを見放すんですか!」


だが、それすら言わせないように、アマリリスはマリーを抱きしめ、スコッチの方を睨んだ。

錆びた歯車のようなギスギスとした空気感。流石に耐えられない。

フランはドアの方へと向かった。


「……すいません、ちょっと僕、お手洗いへ」


そして、逃げた。


「おい!フラン!」


リュクレーヌを残して。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る