第3話 令和三年度3回小倉6日障害3歳以上未勝利
寅衛門「え~、今週もやってきました夏競馬のお時間です」
寅吉「先週は福島の魔物に骨までバリバリ食われただけで終わりましたが、今週は小倉の悪魔にも食われに参りました。これぞまさしく飛んでJRAに入る夏の虫!! というコンセプトのもと、本日目指すのは――」
寅衛門「大勝ちしなくていい、1.1倍でいいから返金が欲しい……」
寅吉「だいぶ目標が小さくなりましたな」
寅衛門「今回このレースには、あのキズナの産駒が出ておるな!」
寅吉「3サンデーパームス、母の父はスペシャルウィークというなかなかの血統のようですが」
寅衛門「11番人気か。どうもこれまでの結果が思わしくない。騎手の変更が吉と出るか凶と出るか」
寅吉「他にもダイワメジャー、ステイゴールド、ヴィクトワールピサなど、錚々たる血統の産駒が揃っております」
寅衛門「現役時代に結果を残せた馬だけが子孫を繋ぐ、競馬はそういうものだ。だがこれ、障害走なんだよな」
寅吉「平地適性がいまいち、と判断された馬が流れてくる印象があります」
寅衛門「血統だけでは判断できず、前走までの成績を充分に吟味せねばならん」
寅吉「……どれもひどいっすね」
寅衛門「……未勝利戦だし」
寅吉「予想じゃなくて運ゲーになりそうですなあ」
寅衛門「夏競馬の魔王とは、このデータのことなんだよなあ」
寅衛門「とりあえず軸はどうする」
寅吉「殿の予想は的外れだと先週学びましたから、殿の意見は聞きませんよ、ワシ」
寅衛門「じゃ、勝手にしゃべる」
寅吉「どうぞ」(イヤホン装着)
寅衛門「……」
寅吉「(ふんふふふ~ん、ウマ〇ョイ、ウマ〇ョイ♪)……あっ!」
寅衛門「……没収」
寅衛門「4クリノニキータ、7ディレットーレ……あと一頭、なにか入れたいところだ」
寅吉「1クライムメジャーはどうしますか」
寅衛門「8ミンナノシャチョウとか12モズエロイコあたり、名前が気になる」
寅吉「それ、負けパターンですよ」
寅衛門「むう。では2ビップデヴィット」
寅吉「……? 10番人気ですよ?? どうしました???」
寅衛門「ワカラン。福島の魔物に取りつかれているのやもしれん」
寅吉「ほ~ん。じゃあまあ、とりあえず各自のシンキング・タイムといきますか」
寅衛門「ん」(タブレット、ぽちっ)
寅吉「さて」(赤鉛筆舐め舐め、競馬新聞、バサァ)
寅衛門「う~ん、迷いながらの3連複」
寅吉「いったいこのレースのどこに3連複を買う要素がありましたか」
寅衛門「う~ん…」
寅吉「ワシはもう手堅く単勝で攻めますわ」
寅衛門「一点買い?」
寅吉「いえ、複数ですよ、もちろん」
寅衛門「てなわけで、儂はのボックスで3連複」
寅吉「ボックスとは、選んだ馬番の組み合わせすべてを一括買いする大人の箱買い方ですぞ!」
寅衛門「お前は単勝だろう?」
寅吉「なるべく下手にならないよう、打ちます」
寅衛門「…公営エンターテイメントいうても所詮は博打よ……」
寅吉「さあ、そろそろ出走ですぞ!」
寅衛門「パンパカパ~ン」
寅吉「パパパパ~ン!」
寅衛門「ふむ、順当なスタートだ」
寅吉「ウマピョ〇、ウマピョ〇!」
寅衛門「……その掛け声、障害にぴったりだな」
寅吉「けっこう腹、擦るんですね」
寅衛門「ルールでは4本脚が一瞬でも同時に浮けばいいんじゃなかったか」
寅吉「ん? どうでしょう?」
寅衛門「2番が出てきたか」
寅吉「1番いい位置ですね」
寅衛門「3番は……どうなんだ」
寅吉「ウマピョ〇、ウマピョ〇!」
寅衛門「ウマピョ〇、ウマピョ〇!」
寅吉「さあ最後の直線に入っていきますぞ!」
寅衛門「モズエロイコぉ!!!!!」
寅吉「ツブラナヒトミ!」
寅衛門「ミンナノシャチョウ!」
寅吉「ん?」
寅衛門「……ツブラナヒトミ、一着」
寅吉「8番人気ですか……」
寅衛門「買ってない」
寅吉「ツブラナヒトミ絡みのワイドは買っていたんですが、掠ってない」
寅衛門「ああそれ悔しいパターンな」
寅吉「……もう1レース!」
寅衛門「ダメ。頭が熱くなったら勝てるものも勝てない。今日はもう見るだけ!」
寅吉「朝一レース買うの止めません?」
寅衛門「……確かに」
今日の結果 寅衛門:0 寅吉:0
今日も芝生に馬券が舞い散る 葛西 秋 @gonnozui0123
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