第3話 遭遇。ゴブリン

「腹減ったなぁ……夢なのに。」


迷宮探検に集中できない程に食欲が沸いてしまったので、苦渋の決断で『欲求制御Lv1』を10SPで獲得する。


「おぉ、一気に満腹になった。すげぇなスキル……って、また『気配察知』に反応か。そろそろスライムも卒業したいなぁ。」


その言葉がフラグとなったのか、気配を察知した場所に居た存在は、スライムではなかった。


「グギャァ…ッ!」


「……おぉ、ゴブリンか? 随分とまぁ恐ろしい顔で出てきたな。」


デフォルメなんかされていない。R18待ったなしの顔面に、思わず顔を顰める。


だが、先程より少し上がり、現在のレベルは29。察するに、コイツを倒して無職レベルMAXにするのがチュートリアル終了の合図なのだろう。


そう考えた俺は、それなら倒すしかないよな、と意気込む。相対した醜い顔は、嫌な想像を掻き立てるものだが、引くわけにはいかない。


「よっしゃ、行くぞゴブリン!」


「グギャッ!!」


 だが、そう甘くいくわけもなく。


「…………え?」


ゴッ!と鈍い音が響く。


ゴブリンが俺の頭を手持ちの棍棒で横なぎに殴ったのだ。


野球選手顔負けのフルスイング。脳が揺れる。痛いというより、苦しい。


「グギャギャッ!!」


「……かはッ!」


今度は腹へ。直撃した棍棒は俺を吹き飛ばし壁へと衝突させる。


「……な……んで………。」


視界がボヤける。痛みで体が動かないが、首をつたう液体は頭から流れる多量の血だと理解できた。


「グギャギャギャギャッ!!」


ゴブリンの喜んだ声が聞こえる。俯いているので表情は見えないが、きっとニヤついているだろう。


俺がスライムを倒した時のように。


これから俺はどうなるのだろう。死んだら初期位置で復活だろうか。それとも、夢から覚めるのだろうか。


いや、どちらも違うかもしれない。


「……もし…かして……死ぬ?」


本能で感じ取ったソレは、明確な死のイメージ。途端に今まで起こっていたことが全て現実に思えてしまう。


自室で穴に落ちたのも、ステータスが見えたのも、スライム狩りをしてレベルを上げたのも、今まさに殺されそうになっているのも。


「……いや………だ。」


強打され働きたがらない頭を無理やりフル回転させる。


何か、何かないかと必死で考える。


少しでも長く生きられる道。己が助かる未来を。


そして……


「……こ……れだ。」


SPで獲得できるスキル一覧で見つけたスキル。


見えた光明を連打し、現在のSPでレベルを上げられるだけ上げる。


「グギャァ……?」


ゴブリンからは俺のステータスが見えていないのだろう。おかしな行動を取り始めた俺を不思議に思っているようだったが、すぐに興味をなくしトドメを刺すべく棍棒を振り上げた。


その間俺はピクリとも


……まだ、まだだ。


「グギャァッ!!」


「今ァッ!!」


「ギャッ!?」


バッ!と。満身創痍であった筈の俺が、ゴブリン渾身の一撃を避ける。先ほどのダメージの量を見れば、不可能と言えるような動き。


そんな有り得ない事実にゴブリンは硬直する。そしてそんな隙を、俺は見逃さなかった。


「あああああああああッ!!!」


「グギャァァッ!!?」


筋力に任せた顔面パンチ。先程の俺と同様吹き飛ぶが、当然とても致命傷とは言えない。


せいぜい鼻血が関の山だろう。


そして、今の一撃で分かった。コイツは今の俺よりステータスが……少なくとも耐久の数値が高い。


吹っ飛ばされても決して手放さない棍棒は、意識があることを物語っている。一度目は付け入る隙があった。今度は油断しないだろう。そうすれば、今俺が取ったスキルがあっても殺される。


「今回は……俺の負けだ。」


何故か倒れたまま起き上がらないゴブリンに向かって、俺はそう呟く。


「じゃあな。次会う時にお前を殺せるよう、頑張ってみるよ。」


そう言うと、もう振り向かずに走り出す。後ろから追ってくる気配はない。


悔しいが、見逃されたのだろう。


「……あぁくそ!何が夢だよ!」


みっともない。本当に。


「意味わかんねぇけど!これが現実なら!」


生き残ってやる。最後まで。


顔に付着していた血を拭いながら、そう誓った。











◇◇◇

ああ羨ましい妬ましい。


仰向けに倒れ込んだまま、彼はそう思う。


さっきまで、取るに足らない雑魚だった。瀕死だった筈の餌。


そんな奴に殴られた。背に土をつけられた。


……負けた。


ああ羨ましい妬ましい。


何故あの状態からアレが立ち上がれたのかは分からない。彼にそんな知能はない。


だが羨ましい妬ましい。


もその力が欲しい。』


強きに抗える強さが。負けることの無い力が。


《大罪スキル『強欲』を獲得しました。》


《大罪スキル『嫉妬』を獲得しました。》


声を聞いて、二チャリと笑う。


奇しくもソレは、初めてステータスを見た時のある男と、全く同じ笑みだった。





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