#861

――地上では、アンとフォクシーレディの戦いが再開し、その上空ではジャズとローズの激しい戦闘が続いていた。


実力でいえば、当然ローズのほうが上だ。


ジャズがいくら合成種キメラの力を得たとはいっても、ローズはまぎれもなくマシーナリーウイルスの適合者である。


そのため、ウイルスとの適合率が低かった者たちとは違い、投薬や人為的精神操作などは一切不要。


完全に適合している人間は、彼女をのぞけば、姉であるアン・テネシーグレッチ二人だけだ。


彼女らと同じくヴィンテージであるあのノピア・ラシックでさえ、前述ぜんじゅした処置しょちほどこすことでなんとかウイルスと適合している。


さらにいえば、ローズは今の十五歳になったばかりのジャズよりも早く、戦いに明け暮れる日々を送っていた。


それから複雑ふくざつな事情で、ストリング帝国軍に入隊。


その後は、ただの一兵卒いっぺいそつから現在の将軍の地位まで、数々の武勲ぶくんを立てて最速で昇進した。


だが、それでも。


ローズがいかに強くとも。


ジャズと戦うまでに消耗しょうもうし過ぎていた。


彼女は、ブレイク、ブライダル、ソウルミュー、エンポリの四人を相手にし――。


次には、マシーナリーウイルスと合成種キメラの力――さらにはすべての神具を一つにした無限刀インフィニティソードを持ったミウム・グラッドストーンとも戦った。


もはや、ローズにはこの戦場で立っている力さえ残っていないはずなのだ。


だが、彼女はそれでも倒れない。


「どうしたジャズ・スクワイアッ! 手数が落ちているぞッ!」


すでにローズが満身創痍まんしんそういなことは、戦っているジャズにはよくわかっている。


しかし、折れない。


ローズ・テネシーグレッチの戦意は折れるばかりか、ジャズを見据える眼光はさらにするどくなっていた。


「ローズ将軍……どうしてそこまで……?」


ジャズはボロボロになりながらもまだ戦おうとするローズを見て、攻撃の手がゆるまる。


そのすきを見逃さず、ローズは一瞬で彼女の背後へと回り込む。


「もらったッ!」


稲妻いなづまほとばし装甲アーマードした拳が、ジャズの胸部きょうぶつらぬこうと放たれた。


振り返りすぐに反撃しようとしたジャズだったが、もう間に合わない。


やはりいくら満身創痍とはいえ、ローズのほうが戦闘経験も実力も上だった。


しかし、そのとき――。


ジャズの頭の中に声が聞こえる。


《ジャズ……大丈夫だよ。君のことは俺が守る》


「えッ!? 今のは……?」


ジャズは遅れながらも効果装置エフェクトで機械化した腕を突き返した。


だが、ローズの攻撃のほうが彼女よりも早く、このまま胸を貫かれるかと思われたが――。


「なんだとッ!?」


「うおぉぉぉッ!」


ジャズの拳のほうが、ローズよりも先に彼女の胴体を突き刺さったのだった。

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