#850

「何がおかしい?」


「これが笑わずにいられる? あんたのお友達が、今後の世界がどうなるかを表してるわ」


フォクシーレディは、今は結束しているように見えても、結局は各国が一つになることはないと言う。


「あんたやあのサーベイランス·ゴートが頑張ったみたいだけど、人間なんて所詮自分のことしか考えてない生き物なんだから」


「負け惜しみを言う……」


メディスンは液晶デバイスを片手に、フォクシーレディに言い返す。


「見てみろ。お前の工場を制圧した後、世界中の国のリーダーたちが話し合いを始めている」


デバイスをフォクシーレディに突きつけ、メディスンは説明をする。


エレクトロハーモニー社の工場を制圧した各国は、それぞれ代表者を出し、今後の話し合いを始めている。


その話し合いを引っ張っているのは、かつてジャズたちが訪れた国――オルゴー王国の王女レジーナ·オルゴーだった。


レジーナは、すべての国を一つに統一とういつし、これからはその代表者同士で世界の状況を決めて行こうという政策をし進めているようだ。


「これを見てまだ笑うか? 世界はこの後一つになる。もう争いなど無意味だと、誰もが平和を望んでいるんだ」


「そんなの続かないわよ。バイオニクス共和国がそうだったように、共和国制――君主を持たない政治体制にしたって、結局は特権階級が私利私欲しりしよくむさぼるに決まってるんだから。そしたら、どうせ割を食ってる連中が戦争を起こす。歴史はずっとそれを繰り返してきたじゃない」


「今まではそうだったかもしれない。だが、今は指針ししんになる人物がいる」


「もしかして、あのサイドテールののことを言ってるの?」


「そうだ。実際にこの政策をうったえているレジーナ·オルゴーは、ジャズの影響を口にしている」


メディスンがそう言うと、フォクシーレディは突然立ち上がった。


両手を拘束されたままではあったが、自分の顔をメディスンの眼前がんぜんに突きつける。


「それがどうしたって言うのよ? たかが一国の小娘を動かしたくらいで世界を変えられるつもり?」


「事実、少しずつでも良くなっていることに変わりはないだろう」


ひるまずに言い返してきたメディスンに、フォクシーレディはほおふくらませる。


そして、ふらつく足でピョンピョン飛び跳ねながら、彼から離れた。


「たしかに、ジャズ·スクワイアの影響は無視できないわね。でもさ、ここであの娘が死んだらダメになっちゃうんじゃない?」


「この状況で強気だな。すでにエレクトロハーモニー社の工場は制圧された。お前にできることなど何もない」


「ホンットめが甘いわね。いくらアン·テネシーグレッチが強くたって、私がこんな簡単に捕まると思ったわけ?」


「なんだと?」


メディスンが表情を眉間みけんしわを寄せた瞬間――。


彼らが乗っていた陸上艇が爆発した。


突然の攻撃で壁に叩きつけられたメディスンが目の前を見ると、そこには天井からの砲撃でバラバラなったフォクシーレディの姿があった。


メディスンは、その無惨むざんな姿で転がっているフォクシーレディの死体を見下ろす。


天井に開いた穴から入る光に照らされた死体の顔は、実に嬉しそうに笑っていた。


「くッ!? 何がなんだかよくわからんが、こいつの手の上でおどらされていたということか」


そして、メディスンは艇内にいる者たちへ連絡し、その場から脱出した。

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