#849

――ジャズとアンがブレイクたちとローズ·テネシーグレッチが戦っている場所へと向かっていたとき。


拘束こうそくしたフォクシーレディを陸上艇へと乗せ、メディスンは、戦闘の終えたブラッドやエヌエーなどの他の部隊と合流しようとしていた。


アンとの戦闘によってかなりの重傷をわされたフォクシーレディは、両手をしばり上げられた状態で陸上艇内の一室に隔離かくりされる。


「この戦争を裏から操っていたのが、まさかお前だったとはな」


メディスンは何人かの者を連れ、彼女の尋問じんもんを始めようとしていた。


それは、フォクシーレディの経営する組織――エレクトロハーモニー社の戦力がどれくらいあるのか。


ストリング帝国との関係はどういったものなのかなど、この後の戦況せんきょうがどうなるかを知りたかったからだ。


拘束されたフォクシーレディが顔を上げる。


「久しぶりよね、メディスン。共和国で会って以来かしら? 相変わらず神経質そうな顔してるわ、あんたは」


「くだらない話をするつもりはない。お前のこれからの態度次第では、死刑はまぬがれるかもしれんぞ」


「それは無理でしょ。だって、全部あたしが仕組んだことだし。そんなの各国がだまっていないわよ。まあ、あたしを捕まえたボーナス代わりに、すべて話してあげるつもりだけどね」


それからフォクシーレディは、訊ねられたことを饒舌じょうべつに話し始めた。


ストリング帝国軍は、ローズの命令で本国のあった地域へと全軍退却。


皇子であるアンビエンス·ストリングと、皇女であるイーキュー·ストリング二人も帝国の将校らと共におり、もう戦えるほどの力は残っていない。


さらにエレクトロハーモニー社のほうは、すべての工場がジャズの演説動画に触発された国らによって、すでに制圧されてしまっているようだ。


「まったくやってくれるわ。あのサイドテールのがここまで影響力を持つなんてね。予想外過ぎちゃった」


メディスンは傍にいた者に、今の話が本当かどうかを調べるように頼んだ。


頼まれた者は、小型の液晶端末を取り出して、早速世界の状況を確認する。


そして、その結果。


フォクシーレディの言う通り――。


帝国軍は本国へと向かっており、世界中にあったエレクトロハーモニー社の工場は制圧されたようだった。


「ね? 本当だったでしょ?」


「お前は何がしたかったんだ? たかが金儲けで戦争を継続させたいという理由はどうもに落ちん。何故ならお前は、人生を何十回やり直しても遊んで暮らせる金を持っているだろう?」


訊ねるメディスンに、フォクシーレディが肩を揺らす。


「あたしの目的はね……世界平和ッ! って、言ったら信用してくれる?」


メディスンはヘラヘラと口角を上げて言うフォクシーレディを見下ろして、その神経質そうな顔をゆがめた。


ふざけたことを言う女だと彼が思っていると、そこへ彼の通信デバイスに連絡が入って来た。


デバイスには、ベクターの部下だった男――イーストウッドの名が表示されている。


「どうしたイーストウッド、何かあったのか?」


メディスンは連絡に出て訊ねた。


イーストウッドはベクターの命令で、現在撤退をした帝国軍のほうを追っていた。


通信デバイスから冷たい声が返ってくる。


《単なる報告だ。これから帝国軍を殲滅せんめつする》


「なッ!? お前ッ!? いきなり何を言ってるんだッ!? ベクターさんからの指示は帝国の様子を見るというものだっただろッ!?」


《ベクターさんは……殺されたんだろ》


しずんだイーストウッドの声を聞き、メディスンはベクターの死が事実であると伝えた。


それを聞いたイーストウッドは、声を張り上げるわけでもなく、メディスンへ言う。


《私の部隊は、戦争を始めた帝国の奴らにつぐないをさせる》


「おいイーストウッドッ! 個人的の感情で動くなッ! 今各国が動き始めているんだ! 帝国への処罰はこの戦争が終わってから世界が決めることで、私たちが決めることじゃないッ!」


《報告は以上だ。そちらの健闘を祈る》


「イーストウッドッ!」


そこで通信は切られた。


メディスンはすぐに傍にいた者に指示を出す。


イーストウッドのもとにいる兵たちに勝手に動かないように伝えてくれと、大声を張り上げる。


傍にいた者らは部屋を出て行くと、狼狽うろたえているメディスンを見てフォクシーレディが笑う。


「まあ、こんなもんよね。フフフ、フッハハハァァァッ!」

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