#805

――ローズが研究施設を出て行った頃。


ストリング帝国の陸上戦艦ボブレンから脱出したウェディングは、アバロン、コーダ、ネア三人の将校に率いられた帝国の追撃を受けていた。


ライティング、トランスクライブ、メモライズ――。


そしてロウル·リンギングの活躍、犠牲により、リーディンを始め、大勢の研究施設にいた者たちの救出に成功したウェディングだったが。


帝国がほこる飛行装置――ジェットパックで飛ぶ追撃隊の速度の前に、たちまち追いつかれてしまう。


多くの救出した者たちを収容した陸上艇では、艇の船足――速さではどうしてもかなわなかったのだ。


「コーダは左ッ! ネアは右から兵を連れて囲めッ! 私は速度を上げてこのまま陸上艇を止めるッ!」


銃剣タイプのインストガンを構え、ジェットパックで飛びながら指示を出すアバロン。


そんな彼の傍で飛んでいるコーダとネアが、それぞれ声をあげる。


「お前が仕切るのは気に食わねぇが、ここは言うことを聞いてやるぜッ! なんたって俺たちの仇敵きゅうてきがそこにいるんだからなッ!」


「いいじゃないいいじゃないッ! このまま皆で盛り上がっていけばいいじゃないッ! もう舞う宝石ダンシング ダイヤモンドは目と鼻の先だよッ!」


三人はこれまで何度もウェディングに煮え湯を飲まされてきた。


その中でも、もっとも三人の感情をたぎらせているのは、上官だったスピリッツ·スタインバーグを殺されたことだろう。


今の三人は任務すらも忘れ、ウェディングを仕留められるチャンスに得て、その喜びを隠せずにいた。


アバロンの指示通り、左右から少数の帝国兵を引き連れたコーダとネアが、陸上艇にインストガンを発射。


だが、陸上艇は電磁波くらいではビクともせずに走り続けている。


「ダメだッ! 火力が足りねぇよッ!」


「これは直接飛びついて止めるしかなさそうだね」


コーダとネアがそう言いながら陸上艇を見ると、その船体――ボディの上にかがんでいるウェディングの姿があった。


「居やがったなッ! 舞う宝石ダンシング ダイヤモンドッ!」


怒りと歓喜の叫び声をあげたコーダ。


そして、ネアが自分についていた帝国兵とコーダについていた兵らに指示を出す。


「これから私とコーダ少尉は陸上艇に飛び乗ります。皆さんは飛び出してきた者がいたら捕らえてください」


ネアが冷静さ帝国兵らに指示を出していると、陸上艇の正面からまるで弾丸のように飛んで来る者の姿があった。


それは、先ほどにジェットパックの速度を上げ、陸上艇を追い越していったアバロンだ。


「お前に殺されていった者たちの無念……。私が……私たちがここで晴らしてくれるッ!」

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