#788

空間が歪み、気が付くとブレイクたちはエンポリがいる小屋へと戻っていた。


「戻ったぞッ! おいッ! オレたちは試練を乗り越えたんだなッ!」


ソウルミューが喜んでいると、三人の目の前に腰を下ろしていたエンポリはバタンと倒れた。


そんな彼にブレイクたちが駆け寄ると、エンポリは手で彼らを制して苦しそうに言う。


「大丈夫だ。それよりも本当に試練を乗り越えたのかよ……?」


ブレイクはそんな彼の手を振り払ってエンポリの身体を起こした。


エンポリが彼の態度に驚いていると、ブレイクは口を開く。


「あぁ、テメェらが助けてくれたおかげだ。両目もバッチリ見える。おそらくもう神具の呪いも、大災害もエレメント·ガーディアンも止まっているはずだ」


ブレイクはエンポリを起こすと、彼と傍に立っているブライダルとソウルミューのほうへ顔を向ける。


そして、ニッコリと微笑んでみせた。


「ありがとよ。偉そうなこと言ってたがよ。オレ一人じゃ試練を越えることはできなかった」


唖然あぜんとするエンポリに、嬉しそうにするソウルミュー。


そして、ブライダルが突然両手を高々と上げる。


「ブー坊君がデレたッ! こいつはこのままトゥルーエンドへ向かうフラグが立ったってことだよッ!」


「おいッそこはハッピーエンドじゃねぇのかよ? つーかブー坊がデレたってなんだ?」


はしゃぐブライダルにソウルミューが首を傾げて言っている。


ブレイクは、自分がいつの間にかブー坊と呼ばれていることに眉をひそめると、何故そんな呼び方をしたのかを訊ねる。


「それはね~。ギブバースちゃんがあんたのことをそう呼んでたから、私らも気に入って使ってみよっかな~って思ってさ~」


「あぁ、ブレイクよりも呼びやすいし、語呂ごろがいいしな」


「だよね。それに可愛いし」


ブライダルとソウルミューから話を聞いたブレイクは、さらに眉間みけんしわを寄せた。


そんな彼の横では、エンポリが両目を見開いている。


「おい、ギブバースって……。あの神具を創ったいう伝説の賢者のことか?」


「うん。なにエンポリ君も知ってんの? なんかいかにもって感じの口調の幼女だったけど、とっても可愛い人だったよ」


「お前ら……マジでギブバースに会ったのかよッ!?」


声を張り上げたエンポリは言葉を続けた。


彼が師であるイード·レイヴェンスクロフトから聞いた話によると、たとえ神具の加護や啓示を受けた奇跡人スーパーナチュラル呪いの儘リメイン カースですら会うことができない人智を超えた存在――超生命体みたいなものだと言う。


その伝承としては、イードの故郷である時の領地タイム テリトリーから細々と物語として――ギブバースが賢者として知られているようだが。


現実にギブバースと会話した者は、今は亡き、領地タイム テリトリー村長むらおさだったマスタークオのみだと言われている。


「イード様すら会ったことない伝説に、お前らみたいなのが会ったのか……?」


あり得ないとばかりに狼狽えているエンポリに、ブライダルが二ヒヒと笑う。


「じゃあ、私とクソ兄貴も“選ばれし者”ってヤツになれたのかな? ブー坊君はそうだけど、私らがそんな大層なもんなっちゃうのは、正直笑えないね~」


「ハシエンダの酔っ払いが“選ばれし者”か……。たしかに笑えねぇな」


そうは言いつつも、笑みを交わし合うブライダルとソウルミュー。


それからブレイクは、狼狽えているエンポリの肩をバンッと叩くと口を開く。


「ウダウダ言ってんじゃねぇぞ。行こうぜ、オレたちがやりてぇことをやりによッ!」

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