#786

――ギブバースの言葉で、不安に駆られるソウルミューは、まだ薄暗い空間を行ったり来たり歩き続けていた。


その傍では、黙ったまま顔を強張らせているギブバースと、身体がだるくなったのか、地面に寝っ転がっているブライダルがいる。


「いつまでもウロウロしてんじゃないよ。落ち着いて昼寝もできないじゃない」


「お前は……ブー坊のヤツが心配じゃねぇのかよッ!」


寝転がっているブライダルを見下ろし、声を張り上げるソウルミュー。


だが、彼女はそんな怒鳴る彼のことなど気にせずに、あっけらかんと返事をする。


「おッ、早速ギブバースちゃんが言った呼び名を使ってるね~。なによ~クソ兄貴も気に入ってんじゃん」


「んなこたぁどうでもいいだろうがッ! それよりもブー坊だよッ!」


「だから~、何度も言わせないでよ。ブー坊君なら大丈夫だってぇ」


「ならなんでさっきからギブバースは怖い顔で黙ってんだよッ!」


ソウルミューはつばを吐きかける勢いでブライダルへ言うと、彼女がヒョイッと飛び上がって立ち上がった。


そして、彼が指を差しているギブバースのほうを向く。


ソウルミューの言う通り、ギブバースはその幼い顔を歪めたままだった。


しかし、それでもブライダルは問題はないと言い切る。


「だってブー坊君はあれだよ、あれ。選ばれし者ってやつだよ。それにライバルキャラで、この話が群像劇っぽくなってから主人公の一人になってるし、絶対に試練を乗り越えるよ~」


「また得意の意味わかんねぇこと言いやがって……。いいかッ! お前のその根拠こんきょのねぇ理屈なんて信用できねぇんだよッ!」


ソウルミューは怒鳴り返すが、ブライダルは彼を無視して話を続ける。


「いや、そりゃこの話がノワールだったら私もこうは安心してないけど、やっぱジュブナイルだからさ~。そこは期待を裏切らないでしょ? こんなとこで、はい、試練は乗り越えられませんでした。ダメでした。世界は終わりです――なんてそんな展開したら、「はぁッ!?」って呆れて読んでくれてる人が怒り狂っちゃうよ」


「ノワールだかジューダス·プリーストだかなんだか知らねぇが、意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよッ!」 


ソウルミューが再び声を張り上げたとき、それまで黙っていたギブバースが口を開く。


「ブー坊が……ブー坊がッ!」


幼女の言葉に、ブライダルとソウルミューが彼女のほうを振り向くと、今いる薄暗い空間が光を放ち始めた。


驚愕するソウルミューにブライダルが二ヒヒと笑う。


「なんだこりゃッ!? まさかブー坊のヤツが試練に失敗しちまったのかよッ!?」


「そいつはこれからわかるよ。まあ私的~、ブー坊君はぜぇ~たいに試練を乗り越えると思ってるけどね~」


そして、光が空間をおおい尽くし、すべてを飲み込んでいった。

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