#770

エンポリが声を張り上げると、小屋の中を光が埋め尽くしていく。


「なにこれ? これって結構マジでヤバくね? これじゃまるで氷漬けの幻獣と魔導の力を持つ少女の共鳴現象によって消失しちゃうあの……二人……。名前忘れちゃったけど、そんな感じになっちゃいそうだね」


「意味わかんねぇこと言ってねぇで早く下がりやがれッ!」


ブライダルが首をかしげていると、ブレイクは彼女に駆け寄った。


だがブライダルもブレイクも、小屋の中を埋め尽くしていく光に飲み込まれていく。


そして、光が消えるとブレイクは驚愕きょうがくした。


「目が……見えるッ!?」


ブレイクは約一年ぶりに見た自分の両手を凝視していた。


それから次に胸や腹、そして下半身から足までを見て何度も確認していた。


儀式の呪いが解けたのか。


そんな疑問を抱えながらブレイクが周囲を見ると、そこにはどうしてだかブライダルとソウルミューの姿があった。


「テメェらまで……どうして……?」


「はて? なんでだろうね? 私もこのクソ兄貴も奇跡人スーパーナチュラルでも呪いの儘リメイン カースでもないのにねぇ~」


ブライダルは両手を組んでまた首を傾げている。


その横では、ソウルミューがほうけた顔で周囲を見回していた。


「なんだよここは……? なんでオレがこんなわけがわかんねぇとこに連れて来られてんだよぉぉぉッ!」


そして、突然の絶叫。


今までのゾンビのように生気のなかったソウルミューが大声で喚き始める。


もうアルコールが身体から完全に抜けたこともあって、手足をブルブルと震わせながら情緒不安定に右往左往していた。


それに釣られたわけではなかったが、ブライダルとブレイクも周囲を見た。


三人のいる場所は薄暗い空間で、遠くを見ても何も変わらない暗闇がずっと続いているようなところだった。


息を飲むブレイクの横で、ブライダルがまだ喚いているソウルミューを見て鼻を鳴らす。


「ハンッ! まったく見苦しいねぇ。思わず鬼っ娘メイドの姉様みたいになっちゃったよ」


「いや、この状況じゃこいつが普通の反応だ」


「嫌だな~ブレイク君たら。その言い方だとまるで私がおかしい子みたいじゃないの」


ブレイクは「いや、誰でもお前と会話すれば変な奴と思うだろ」と思っていると、三人の前に一人の人物が現れる。


「クリーンッ!?」


ブレイクがその人物を見て叫んだ。


「ダブッダブじゃないかッ! お前……こんなとこにいたのかよッ!」


そして、ソウルミューも叫んでいた。


だが、ブライダルには二人が何故そんなことを言いだしたのかがわからない。


何故ならば、彼女にはその現れた人物が、ブレイクとソウルミューがいう人間とは違う姿に見えているからだった。


「何言ってんだよあんたら? クリーンって子でもダブでもないよ……? この人は……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る