#763

――ヘルキャットとアリアが送ったエレクトロハーモニー社の発注データを確認したジャズたち。


だが、その後に連絡の来ないことに、何かあったのではと思っていた。


特にジャズは顕著けんちょに出ていて、ずっと椅子いすに座ることなく丸太小屋の中をウロウロと歩いている。


「おい、少しは冷静になれ。見てるこっちまで落ち着かん」


「でもメディスンさん! あれから連絡がないんですよ!」


「ヘルキャットとアリアは優秀だ。それに、サーベイランスがいるのだから、そこまで心配する必要はないだろう」


「でも、もし何かあったのかと思うと、落ち着いてなんかいられませんよッ!」


声を張り上げたジャズを見て、メディスンはやれやれとため息をついた。


だが、そういうメディスンも、サーベイランスたちから連絡がないことを心配していた。


それでも彼が冷静さを崩さないのは、これまでの経験と自分の立場を理解しているからである。


緊張や不安は伝染する。


そして、そういうときほど自分が落ち着いて冷静に動かなければ――。


メディスンはまだ部屋をウロウロしていジャズを見ながら思う。


(連絡が来ないぐらいでこの慌てよう……。クリーンが死んだときは冷静そのものだったとアンからは聞いたが……)


今のジャズの姿を見る限り、とてもそうは思えない。


アンは何か大きな勘違いをしていたのだろうと、二度目のため息をつく。


そのとき、二人がいた丸太小屋にエヌエーが入ってきた。


どうやらサーベイランスたちではない人物から通信が来たようだ。


それを聞いたジャズはわかりやすく肩を落とすと、メディスンが三度目のため息をついた。


「それで、その通信は誰からなんだ?」


メディスンはジャズを放って訊ねると、エヌエーがその相手の名を口にする。


「それがね。なんとベクターさんからなんだよ」


ベクターとは――。


崩壊したバイオニクス共和国の前身組織であるバイオナンバー結成時のメンバーである人物。


メディスン、エヌエー、ブラッドらもバイオナンバーの古株だが、彼はハザードクラス――ロウル·リンギングと同じく組織のリーダーだったバイオと共にストリング帝国と戦っていた男だ。


今から八年前の戦争――アフタークロエで組織が勝利後に共和国が創られ、いろいろあって再び共和国で重要なポストについたベクターだったが。


サーベイランスとの戦いで重傷を負い、国の崩壊後にその行方はわからなくなっていた。


エヌエーが言う。


「合流したいから今いる場所を教えてくれって言ってたよ」


「よし、じゃあすぐに返信だ」


メディスンがそう言うと、エヌエーはさらに言葉を続ける。


「それとね。ベクターさんはイーストウッドといるみたいで、あとヘルキャットとアリア、あとサーベイランスも一緒みたい」


「なんだってッ!?」


ジャズはエヌエーの話を聞くと、その声を張り上げた。

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