#762

機嫌が直ったサードヴァーとシヴィルははしゃぎながら返事をする。


「そうだよ! こんなウソをつくようなオモチャは壊しちゃおう!」


「シヴィルもそう思う! それにね。この子を壊したくらいで、お嬢がわたしたちをキライになったりしないよ!」


その場でピョンピョン跳ねながら言う二人の姿は、その幼い容姿のまま子供だった。


それはトライアングルも同じで、同意してくれた二人に向かって、ニッコリとまるで三日月のような口の形を見せている。


「そうだよね。こんなオモチャを壊したくらいで、お嬢がわたしたちをキライになったりしないよね」


「そうだよ! シヴィルとトライアングルの言う通りだ!」


「お嬢が怒るのは、わたしたちが傷つけられたときだけだよ!」


完全に三人はサーベイランスを壊す方向でまとまっていた。


だか、すぐに壊さずに少しずつ解体したいと言い出している。


それは、子供が見たこともないものを分解したり、小さな虫を笑って踏み潰すのと同じ感覚だ。


だか、それでもサーベイランスに恐怖はなかった。


それは彼が機械で感情がないからではない。


むしろ、これまでの経験でサーベイランスには、自分でも理解できない胸の熱さを覚えていた。


(あいつらは逃げれたか……。それだけが気掛かりだ……)


この愚かな行為に後悔はない。


サーベイランスはそう思いながら、胴体を引き千切られていく。


「わぁー! スゴいね! ピッカピカだッ!」


胸が剥き出しになり、心臓部であるルーザーリアクターが見えると、そのあまりの輝きにサードヴァーが思わず声をあげた。


それはトライアングルとシヴィルも同じで、まるで小さな太陽のようなリアクターを眺めて両目を輝かせたいる。


「そっか! お嬢はこのピカピカが欲しかったんだよ!」


「シヴィルもそう思う!」


サードヴァーとシヴィルがそう言うと、トライアングがうなづく。


「なら、このピカピカさえ取っちゃえばこの子はいらないね」


「いらな~いッ!」


「なーい!」


サードヴァーとシヴィルの返事を聞き、トライアングルがルーザーリアクターを抜き取ろうとその手を伸ばす。


「触るな、小娘どもッ! これはお前たちのような子供が触れて良いものじゃないッ!」


これまで黙っていたサーベイランスが急に怒鳴りあげた。


突然の怒声に、サードヴァーはビクッとけ反り、シヴィルが涙目になってしまっていた。


だがトライアングルはひるまず、むしろ苛立つ。


「もうッ! 急に大声出すな! シヴィルが怖がっちゃってるでしょッ!?」


サーベイランスに説教を始めたトライアングルの後ろでは、サードヴァーが泣きそうなシヴィルをなぐめている。


「いいからこいつに触るなッ!」


だが、サーベイランスは止まらずに声を張り続ける。


その態度に怒ったトライアングルは、ルーザーリアクターを抜き取る前に、サーベイランスの顔面を叩き始める。


幼い姉が悪いことをした妹へやるように、他愛のない単なる平手打ち。


それでも効果装置エフェクトで機械化した手で叩かれているため、サーベイランスの顔と頭部は平手打ちを受けるたびに破損していく。


「悪い子はメッだよ! 謝るまで叩くのをやめないからね!」


トライアングルの折檻せっかんは続き、ついには剥き出しになった人工知能も叩かれ、サーベイランスは意識を失いそうになっていた。


このままサーベイランスは破壊されるかと思われた。


だが、突然トライアングルたちの周囲に小さなものが投げ込まれる。


「うん? なにこれ?」


「こっちにもあるよ」


飛んできた何かは四つ。


シヴィルがその何かを拾うおうとした瞬間――。


「ギャァァァッ!! イタイッ! イタイよぉぉぉぉッ!」


彼女が叫び出した。


トライアングルとサードヴァーは、サーベイランスを放ってすぐにシヴィルに駆け寄ろうとすると、その小さな頭へ白い棍棒が振り落とされた。


その一撃は二人の頭部を順番に潰し、彼女たちはその場で砕けたトマトのような様を見せつけながら倒れる。


「なんでッ!? なんでなんでなんでよぉぉぉッ!? トライアングルッ!? サードヴァーッ!? 死んじゃったのッ!? イヤァァァッ! 死んじゃイヤだよッ!!」


混乱するシヴィルだったが、先ほど放り投げられた何かから発生しているプラズマに晒されて動けずにいた。


白い棍棒――警備業務用に開発された白鼠しろねず色に輝くスタンバトン白い暴動ホワイトライオットを持った人物は、倒れているサーベイランスを自分の脇に抱える。


「ここで殺してやりたいが、あいにく時間がないもんでな」


その人物はそうシヴィルへ言うと、その場から去っていった。


薄れそうな意識の中で、サーベイランスはその人物の姿を見る。


「お、お前は……」


「フン、まさか人間を管理しようとしていた化け物を助けることになるとはな」


しがれた男の声――。


まるで老人のようにのどが枯れている声だ。


その人物は、サーベイランスにそうつぶやくと腕に付けていた通信機器で連絡を始めた。


「おう、俺だ。サーベイランス·ゴートは回収した。うん? なんだイーストウッド? ……二人の容態、かなりヤバいのか……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る