#744
――ジャズがリズムと会っていたとき。
メディスンに連れて行かれたイードとシン――レイヴェンスクロフト親子は、アンがいる丸太小屋へと来ていた。
これまでずっと黙っていたイードだったが、アンの姿を目にするとその口を開く。
「アン·テネシーグレッチ……。ヴィンテージの筆頭がついに動いたのか」
「お前が
イードとアンはそう言葉を交わすと、互いに見つめ合っていた。
その傍にいたメディスンとシンは、そんな二人を見て何も言えずにいる。
「だが、動くのが遅かったな。世界はもうすぐ終わる」
先に口を開いたのはイードだった。
彼はこれまでの沈黙が嘘だったかのように、
今から七年前――。
バイオニクス共和国の前身組織であるバイオナンバーとストリング帝国の戦争。
後にアフタークロエと呼ばれた戦いに参加しなかったアンが、今さら何故出てきたのか。
暴走コンピューターから世界を救ったヴィンテージ――アン·テネシーグレッチだったら、あの戦争を止めることも、その後のバイオニクス共和国の
それを今さら何をしに再び表舞台に出てきたのだと、イードは言い方こそ冷静だったが、厳しい言葉をぶつける。
「お前の言う通りだ……。私はずっと逃げてきた……。それに、今でも戦うのは好きじゃない……。正直いえば怖いと言ったほうがいい……」
「ならば、何故再び戦場へ出て来たのだ?」
「……昔、仲間たちと世界を守るために戦った」
アンはイードに訊ねられると、
「文字通り命懸けで戦い、そして多くの仲間が死んでいった……」
そう言い、アンは顔を上げる。
「イード·レイヴェンスクロフト。お前のバカさ加減にはうんざりするよ」
「なんだと?」
イードが顔を強張らせると、アンは言葉を強く発する。
「たしかに、世界は今大きな危機に見舞われている。その規模でいえば、以前に私たちが戦ったクロエ以上と言ってもいいかもしれない。それでも、それでもな」
アンはその機械の拳を強く握った。
「ここにいる人間は誰も諦めていない。昔の……あのときと同じだ。お前がやったことくらいで人類が滅ぶと思うなよ。それに、若い世代だって失いながらも必死に戦っているんだ。その想いが少しずつ世界を動かしている」
「それが、お前が動いた理由か……」
「私だけではない。お前を止めようとしたすべて者の勇気が、このまま世界中の人間へ伝わっていくんだ」
アンの言葉を聞いたイードは、乾いた笑みを浮かべると、もうそれ以上何も言うことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます