#707

ジャズはそんなサーベイランスの態度に怒り、声を張り上げる。


「サーベイランスッ! いきなり入って来てその態度はなんなのッ!? リュージュ女王が優しいから処罰されないってだけで、あんたがしてることがどれだけ失礼かわかってんのッ!?」


「お前は少し静かにしていろ。私はリュージュ女王と話がある」


怒り狂うジャズをリュージュが落ち着くように言うと、彼女はサーベイランスと向き合った。


「ジャズ殿の参謀さんぼうであるサーベイランス殿が私にお話とは? 一体どのようなことでしょうか?」


「なぁに、私はこの国のことを女王と話そうと思ってな」


「ほう。そうですか。何やら参謀殿は宮殿の者や住民を集めていると聞いてますが、何か国策でも話し合っていたのですか?」


「そうだな。まあ、そんなところだ」


リュージュは頭を下げ、サーベイランスに願い出る。


是非ともその策を聞かせてほしいと。


サーベイランスはコクッとうなづくと部屋の奥へと進んだ。


そして壁に背を向けると、その口を開く。


「率直に言って、この国が生き残るには道は二つしかない」


「二つ……ですか? では、その二つの道とはどのようなものでしょうか?」


慇懃いんぎんに訊ねたリュージュを見上げ、サーベイランスは答える。


「レジーナ王女に国を継がせるか、またはここにいるジャズ·スクワイアへゆずるかだ」


「サーベイランスッ!? あんたなんてことをッ!」


再び声を張り上げたジャズに、リュージュはそっと手で制した。


その顔に動揺の色はなく、静かにサーベイランスのことを見つめている。


「続けてください。参謀殿」


リュージュにそう言われたサーベイランスは、言われるまでもないといわんばかりに、ふんぞり返って話を続ける。


リュージュ女王は、これまでストリング帝国とオルタナティブ·オーダーとの外交でうまく立ち回り、このオルゴー王国の平和を守ってきた。


しかし、それはもう限界に来ている。


両勢力の争いはこれからが本番。


何十万何百万人の死者が出る壮絶なものとなる。


おそらくは各国も巻き込み、かつての戦争――アフタークロエを超える世界規模で繰り広げられるだろう。


「レジーナ王女はそのことに気が付いていた。だが、いつまでも変わらぬ母に苛立ち。そして、ついには強硬手段に出たのだ」


「……あなたの言う通りです。娘は……レジーナは今こそ奮い立つときだと、私に言っていました……」


うつむきながら言うリュージュ。


いくら国のためとはいえ、娘が起こした反乱に心を痛めているのだろう。


だが、サーベイランスは容赦しない。


「だが、そこにジャズ·スクワイアが現れた。あなたはこの女を使って内戦を制し、その後のことも思い付いた」


「なにを言ってるのよサーベイランスッ!?」


「いいからお前は静かに聞いていろ。リュージュ女王、ここまでの話で何か間違っていたことはあるかな?」


サーベイランスに訊ねられたリュージュは、何も答えずにただ俯いたままだった。


その顔色は悪く、今にも倒れそうだったが、サーベイランスの言葉は止まらない。


「答えなくとも話は続くぞ」

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