#702

その後、ジャズたちは特に拘束されることもなく宮殿へ入り、サーベイランスの予想通りに、王の間へと連れて行かれる。


王の間には、玉座に腰を下ろしている高齢の女性がいた。


「あなたたちが暴動を治めてくれたのですね。まずはお礼を」


高齢の女性は、年齢のわりには背筋が伸びており、王族らしい気品をただよわせていた。


彼女はジャズたちを囲っていた警備の者らを下がらせると、彼女たちに前に出るように言い、そして名を名乗った。


「私はこの国を治める女王、リュージュ·オルゴーです。そちらの下げ髪の少女がジャズ·スクワイアですか?」


ジャズは少しムッとした表情をすると、声を張り上げようとした。


「だからこの髪型はポニーじゃなくてサイドテ――ッ!」


「そうだ。こっちの娘がジャズ·スクワイア。そして、私はサーベイランス·ゴートという。私のことはジャズ·スクワイアの参謀さんぼうとでも思ってくれればいい」


だが、サーベイランスが彼女の言葉をさえぎって、 リュージュへ答えた。


リュージュは玉座から立ち上がると、ジャズとサーベイランスの傍へ近寄って来る。


その身体はやまいわずらっているのか。


背筋こそ伸びているが、その足取りはやはり年寄りを思わせるおぼつかないものだった。


「おぉ、まさかこのような辺境の地に噂の英雄が来てくれると」


「へッ? 英雄?」


ジャズがほうけていると、サーベイランスが言う。


「お前のことに決まっているだろう」


「そうだっけ?」


「まったく……」


リュージュはジャズに両手を伸ばすと、彼女の両肩を掴んだ。


そして、寄りかかるように力を込めてその口を開く。


「ジャズ·スクワイア殿……。どうか、どうか私の頼みを聞いてくれないだろうか……」


「えッ!? い、いきなりどうしたんですかリュージュ女王!?」


「娘が……レジーナが私を殺しに来ます……。お願いですから、あの子を止めて……」


リュージュはそう言いながら足元から崩れていく。


そして、涙を流しながら悲願し始めた。


ジャズはそんな彼女を立たせ、優しく声をかける。


「落ち着いてください、リュージュ女王。まずは落ち着いて、話を聞かせてほしいです」


「あぁ……一国の女王の身でいながら、はしたないところをお見せしました」


リュージュはジャズの差し出された手を取って立ち上がると、涙を拭った。


すると突然ゴホゴホと咳き込み、涙を拭っていた布を口に当てる。


ジャズが心配になって彼女に寄り添う。


だがサーベイランスは、そんなリュージュの姿から目を離さないでいた。


(布に血がついている。足取りから見てもそうだが、どうやらこの女王に先はないようだな。余計な問題を抱える羽目になるとか思ったが、逆にこいつはチャンスかもしれない)


それからジャズがリュージュを再び玉座へと座らせた。


「もう、それとなく察しているかもしれませんが……。実は我が娘レジーナがこの国を乗っ取ろうしているのです」


そして、ジャズとサーベイランスは、彼女からこの国の事情を聞いた。

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