#668

――ブライダルが、トランスクライブとメモライズに呆れられている間。


ジャズとライティングは、互いにこれまでのことを話していた。


二人共それとなくわかっていた話は多かったが、当然知らないこともあった。


「驚いたな……。まさかあのアン·テネシーグレッチが君を助けていたなんて……。帝国から逃げ出せるわけだ。だけど、ジャガーとクリーンは……」


ライティングは、アンの協力と、ジャガー、クリーンの死を知り、驚きながらもその表情をくもらせていた。


一方ジャズの知らなかった話でいうと――。


リズムの兄であり、共にイード·レイヴェンスクロフトと戦った人物。


ソウルミューがオルタナティブ·オーダーのもとにいるという話だった。


「あの人も無事だったんだ。早くリズムに知らせてあげなきゃ……。でも、ライティングはあの人と面識はなかったよね?」


訊ねられたライティングが苦笑いをする。


その後の話によると、どうやらソウルミューは廃墟になった酒場で一人酔っぱらっていたらしい。


それも意識を失うほど飲んでいたようで、最初はただの放浪者だと思って保護したようだが、ラムズヘッドとソウルミューを引き合わせたところ。


彼の素性がわかったようだ。


ラムズヘッドが言う。


「彼は元エレクトロハーモニー社の社員だったからね。つまりは俺の同僚。いつの間にかクビになっていたけど」


「ラムズヘッドさんがそのことを教えてくれなければ、ボクらはあの人の言っていることを酔っ払いの戯言たわごとだと思っただろうね」


ソウルミューはベロベロの状態で、自分がイード·レイヴェンスクロフトを止められなかったと言い続けていたようだが。


ライティングたちにはそれが信じられなかった。


だが、ラムズヘッドのおかげで彼の話を真剣に聞いているうちに、その話が信じられるものだとわかったと言う。


「それで、ソウルミューは今どこに? オルタナティブ·オーダーに参加しているなら帝国と戦ってるの?」


「あの人……今はね……」


ライティングは歯切れ悪く答えた。


現在ソウルミューは、オルタナティブ·オーダーが駐留ちゅうりゅうしていた別の街にいる。


しかも、ここからそう離れていないようだ。


ジャズはソウルミューに会いたがったが、それを聞いたライティングの表情に影が現れていた。


「どうしたの? もしかしてソウルミューに何かあったの?」


「それがね……。今のあの人に会っても、ろくに話もできないと思うよ」


ライティングが言うに――。


今のソウルミューは酒浸りで、誰とも話したがらない状態なのだということだ。


その原因は、仲間だったイード·レイヴェンスクロフトの息子――ダブを失ったからではないかと、ソウルミューの発言から考えていると言う。


「でも、妹のリズムが生きていることを知れば……」


「それはどうだろうね……。ボクにはわからないよ……」


ソウルミューのことを話し終わると、場の空気が一気に静まり返った。


それは、ジャズもライティングも彼の気持ちが手に取るようにわかるからだった。


大事な人を失ったことで自暴自棄になった経験はジャズにもある。


ライティングも恋人のリーディンが帝国に捕らわれたままだ。


そしてジャガー、クリーンを失い、その喪失感は継続中。


ソウルミューがそうなるのもしょうがない――。


二人のそのことを、まるで態度で言い合っているようだった。


「彼と会うかは後で決めるとして――」


そんな空気の中、ラムズヘッドが口を開く。


「俺としては、アン·テネシーグレッチが今どうしているか聞きたいのだけど?」

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