#658

ローズ率いるストリング帝国軍の撤退後。


アンは民間人たちと共に、ジャズたちのいるところまで船で向かった。


突然現れたヴィンテージや、無数の船を見てブライダルやヘルキャット、アリアは驚きを隠せなかった。


「ねえあれッ! ア、ア、アン·テネシーグレッチだよッ! 本物! 本物だよッ! モノホンがあそこにいるぅぅぅッ!!」


――ブライダル。


「それにこのモーターボートや漁船はなんなんだッ!? すごい数じゃないかッ!?」


――ヘルキャット。


「伝説の英雄が民間人を引き連れて私たちを助けに来てくれたのですかッ!? どうしてッ!?」


――アリア、とそれぞれ大声で慌てている。


その傍では落ち着き払っているサーベイランスと、川から見えるアンに向かってニコが手を振っていた。


「アンさん……。やっぱり……あなただった……」


ジャズが近付いてくるモーターボートに乗るアンを見て呟いた。


そして、彼女はサーベイランスに声をかける。


「でも、どうしてあの人が? まさかあなたと本当に友人関係なの?」


「そんなことがあるはずないだろう。それはブライダルが勝手に言っているだけだ。私はただ彼女の仲間から連絡を受けただけに過ぎない」


サーベイランスがいうに――。


これまで道中で救ってきた町の住民たちに、回った噂――ジャズ·スクワイアという少女がアン·テネシーグレッチの再来と言われていたこと。


そして、それをどこかで聞いたブラッドとエヌエーという男女から連絡を受けたことを話した。


「まあ、アン·テネシーグレッチの再来という噂は、私が意図的に流したものだかな。アイデア元はブライダルの奴だ」


「ブラッドとエヌエーてッ!? 監視員バックミンスターの二人じゃないッ!?」


監視員バックミンスターとは――。


バイオニクス共和国の治安を維持するための組織である。


ジャズが共和国の学校に通っているときに、リーディンやサービスの事件で二人とは面識があった。


どうやらブラッドとエヌエーは、現在アンと共にいるようだ。


「でも、よくブラッドさんとエヌエーさんがあんたを受け入れたわね。もしかして、サーベイランスって名乗らなかったの?」


「もちろん名乗ったさ。だか、二人は何の疑念も持たずに私のことを信用した。それもお前の名前があったからこそだろうがな」


ジャズは二人がサーベイランスのことを信用したことに驚いていた。


何故ならば、ブラッドとエヌエーはサーベイランスの共和国での起こしたことを知っている――実際に現場にいたからだ。


だが、サーベイランスの話によると今まで通ってきた町に貼っていた通信用回線に(コードナンバーとサーベイランスの名も書かれていた紙)、実に友好的に連絡してきたようだ。


「二人の話によると、ここに集まった民間人たちは皆お前の善意によって救われた者だそうだ」


「それは“あたし”だけじゃなくて“あたしたち”にでしょ」


「フン、まあどちらでも構わんが……。それよりもこれからどうする? 民間人を戦わせたくないと言っていたが、これを見る限り連中は戦意に溢れているぞ」


「そうね……。そこはアンさんやブラッドさん、エヌエーさん……。そして、あんたや皆と話して決めるよ」


ジャズの態度を見たサーベイランスは、またフンッと口にすると、モーターボートから降りてくるアンへと目をやった。


ジャズはアンに駆け寄り、そして敬礼。


そんな彼女を見て、アンのほうは笑っている。


「お久しぶりです、アンさん」


「私はもう軍人ではないから敬礼はいらないよ。それに、もし私がまだ軍人だったとしても、階級でいえば君のほうがずっと上だ」


「なら、なおさらですね。敬礼ではなく。こちらで挨拶させてください」


ジャズはそう言うと、そっと右手を差し出した。


その手の平は開かれており、彼女は握手を求めてアンはそれを機械の

手で握り返す。


「ありがとうございます、アンさん」


「礼ならここにいる皆に言ってやってくれ。私一人の力など大したことじゃないからな」


笑みを返すアン。


ジャズは手を放すと、彼女に頭を下げ、川から見えるすべての船のほうを向いた。


そして、遠くの者にも聞えるよう声を張り上げる。


「皆さんッ! 助けに来てくれて本当にありがとうッ!」


船にいた民間人たちは、ジャズに向かって歓声をあげる。


すると、ニコがジャズの隣に行き、皆に負けないくらいの音量で大きく鳴き返した。

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