#637

――地下にあった研究施設から脱出したジャズたちは、集まり始めていた帝国兵たちの目を潜り抜け、この陸上戦艦ボブレンの格納庫まで来ていた。


ヘルキャットとアリアはジャガーの筋書き通りに、ここからストリング帝国の装輪装甲車――プレイテックを奪ってここから逃げるつもりだった。


だが、連れ出したジャズは彼女たちに声を張り上げている。


「ジャガーを置いていくつもりなのッ!?」


ジャズは自分たちを逃がすために残った弟をすぐに救出しに行こうと叫んでいた。


だが、ヘルキャットとアリアはそれに反対。


ここで戻ったら一体何のためにジャガーが時間稼ぎのために残ったのか。


彼の命を懸けた行動が無意味になると説明していた。


「そんなこと言ったってジャガーだけじゃないのッ! ミックスもリーディンもロウルさんだって研究施設にいるんだよッ! それにブライダルやサーベイランス、ニコだってッ!」


「あなたの仲間はすでに逃がしているわ」


「ニコは最後まで納得していなかったですけど、彼女たちはもう戦艦の外へ出ているはずです」


ヘルキャットとアリアはなんとかジャズを説得しようとした。


だが、今のジャズはとても冷静になれない状態だった。


それは彼女のこれまでのことを考えれば、しょうがないことだといえる。


ヘルキャットとアリアもそうだが、ジャズはまだ十六歳の少女なのだ。


「ともかくあたしだけでも戻るッ!」


「しょうがない……。こんなことはしたくなかったが……」


「なッ!? なにをするのヘルキャットッ!?」


ヘルキャットはいつまでも喚くジャズに向かってインストガンを撃った。


出力を最低まで落としていたため、その効果は電気ショック銃のようなものだ。


当然撃たれたジャズはそのまま気を失う。


その間にアリアがプレイテックに乗り込み、ヘルキャットはジャズを抱えて飛び乗る。


「ジャズったら、昔はこんなんじゃなかったのに……」


「きっとミックス君の影響ですね。急ぎましょう。ハッチのほうは大丈夫なんですか?」


「ああ、そこは問題ないよ。あのブライダルとかいう傭兵が破壊してから逃げるって言ってたから」


「ストリング帝国の敷地内なのに、随分と余裕のある行為ですね……」


そして、プレイテックのアクセルを踏み込んで出発。


すぐに帝国兵らに見つかってしまったが、車体の上部に付いた大型のインストガンを発射し、近づこうとする者を寄せつけない。


「よし、主力部隊はまだ動いていないようね」


「じゃあ、今のうちに戦艦から出ましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る