#636

天井に開いた穴から逃げ出そうとしたジャズたちへ、ローズの放った電撃が向かってくる。


避けきれないと判断したジャガーは、自分を抱えていたヘルキャットの手を払うと自ら盾となって彼女たちを電撃から守った。


「ジャガーッ!」


ヘルキャットが叫ぶと、ジャガーは持っていたオフヴォーカーとコンデンサー·バトンを構えながら言う。


「オレが時間を稼ぐ。お前らはジャズを連れて脱出しろ」


「でも、ジャガー君だけじゃ……」


「そうだよッ! あんた一人じゃ無理だってッ!」


ジャズを抱えながら心配そうに言うアリアとヘルキャットに、ジャガーは笑みを返す。


「なんだよ? お前ら、オレに惚れてたわけ? そういうことはこういう状況になる前に言ってほしかったな~」


「あんた、こんなときになに言ってんのッ!」


ジャガーはのいつもと変わらない態度にヘルキャットが声を張り上げると、アリアが彼女に声をかける。


「ヘルキャット……行きましょう」


「アリア……。でもジャガーがッ!」


「全員捕まったらジャガー君の覚悟が無駄になります」


「くッ!? 死ぬなよジャガーッ! 死んだら殺してやるからねッ!」


そう叫んだヘルキャットはインストガンをローズとジェーシーに撃ちながら、ジャズを抱えているアリアを先へ行かせ、その後を追っていた。


ジェーシーが慌てて物陰に隠れ、ローズはインストガンの電磁波を装甲アーマードした腕で払いながら、再びその手を翳して電撃を放とうとした。


だが、そんな彼女に向かってジャガーがコンデンサー·バトンを振り落とす。


ローズはそれをピックアップ·ブレードの光の刃で受け止めた。


「お前はもっと冷酷な男かと思っていたがな。まさか、仲間を逃がすために自分を犠牲にするとは考えもしなかった」


「ああ、オレもそう思う。キャラじゃねぇよな、こういう役ってのはよッ!」


ジャガーはもう片方の手に持っていたオフヴォーカーを撃つ。


近距離で放たれた電磁波がローズに襲い掛かるが、彼女の機械の腕によって簡単に払われる。


「残念だよ、ジャガー·スクワイア。お前の人生はここで終わる」


「あんたと対面したときから……いや、あいつを護ろうと決めてから、自分の命なんてとっくに捨ててるよ」


「そうか……。ジャガー·スクワイア……。お前は自分で思っている以上に良い男だぞ」


「そう言ってもらえて光栄ですよ、ローズ将軍」


「……もう一度訊こう。私に仕えないか?」


「……そうだな~。やっぱ死にたくねぇし……。よし、ここは降参してあんたに仕えることにしよう」


下がっていたジェーシーはジャガーの言葉を聞いて激昂しているが、ローズは笑みを浮かべて彼に背を向けた。


そして、逃げて行ったジャズたちを追うぞと言い、研究施設から出ようとする。


ジャガーはそう言って背を向けたローズに近づくと、彼女の頭へコンデンサー·バトンを振り落とした。


「ローズ将軍ッ!?」


ジェーシーが叫んだ。


やはり見せかけだったのだと、彼女は物陰から出てローズの傍へと駆け寄る。


油断している状態で頭に警棒を喰らえば、たとえ適合者とはいえどただでは済まない。


頭蓋骨は割られ、脳みそまで飛び散る可能性もあった。


しかし、結果はそうならなかった。


ローズの頭に警棒が届く前に、ジャガーの胸にピックアップ·ブレードの刃が突き刺さったのだ。


「やっぱ……バレてた? 人がわりぃぜ……。ロ、ローズ……将軍……」


「似たようなことを言わせてもらうが。そう言うお前は人が良いな」


そして、ジャガーは血を吐いてその場に倒れた。


満足そうな笑みを浮かべて動かなくなった少年は何を思うのか。


ローズはそんなことを考えながらジェーシーへ言う。


「すぐに部隊を送り出せ。この陸上戦艦ボブレンの外に出ていても、必ず奴らを捕らえろ」

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