#584

訊ねられたサーベイランスは、ゆっくりと宙へと浮いていくと部屋にあったベットへと、その小さな身体を降ろした。


サーベイランスが宙に浮けたのは、飛行装置――ジェットではなく反重力装置アンチグラビティだろうということは、高度な科学技術が発達していたストリング帝国出身であるジャズにはすぐに理解できた。


そして、やはりこんな身体になっていても油断できる相手ではないと、自身の拳を強く握る。


それからサーベイランスは、その小さな機械人形の口で大きく深呼吸をする。


「お前に答える義理はない。それよりも、お前こそよくあの大災害の中で生きていたな」


「ええ、叔父さんやメディスンさんたちのおかげでね」


「叔父……ブロード·フェンダーのことか。そういえばメディスンたちは一緒じゃないのか? それとお前の…恋人…あの適合者の少年、ミックスといったか。奴はどうしている? 他の者もいないようだが」


逆に訊ねられたジャズは表情を曇らせた。


そんな態度からか、サーベイランスは彼女の心中を察する。


「なるほど、他の連中とは連絡が取れぬ状況というわけだな。それか、すでに殆どの奴が死んでしまったか――」


「みんな生きてるよッ!」


ジャズはサーベイランスの言葉を遮って声を張り上げた。


彼女は、仲間たちがすでに死んでいるという発言に強く反応してしまったのだろう。


叫んだ後にハッと我に返ると、申し訳なさそうにサーベイランスのほうを見ていた。


だが、ジャズはすぐに表情を戻し、先ほどの問いを続ける。


「ねえ、サービスはどこにいるの? あなたは知ってるんでしょ?」


「相変わらず話の聞けん奴だな。こちらは義理がないと言ったばかりだろうに……」


サーベイランスはベッドに座ったままため息をつくと、ジャズのほうへと顔を向けた。


そして、それから部屋にいた柄の悪い男女の集団に声をかける。


「問題がないなら今から出発することにしよう」


男女の集団は少し驚いているようだった。


だが、すでに準備は整えていたのか、サーベイランスに従って部屋にある荷物を手に部屋から出ていく。


サーベイランスもベッドからピョンと飛び下り、彼らの後に続こうとした。


「ちょっと!? まだ話は終わってないでしょ!?」


当然ジャズがサーベイランスを止める。


そんな彼女を想ってか、ニコがサーベイランスの前に立ち、その短い手を左右に伸ばして道を阻む。


ニコよりも身体の小さいサーベイランスは、そんな電気羊を見上げると、背を向けたままジャズへ言う。


「サービスはもういない……」


その一言を聞いた途端――。


ジャズはサーベイランスに掴み掛かっていた。

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