#574

メディスンから強引に叔父の遺品を渡されたジャズは、あてがわれた自室へと戻っていた。


部屋には大災害の中から助けられていた電気仕掛けの仔羊ニコの姿があった。


だが、電源を切られているのだろう、動かずに部屋の椅子にポツンと座っている。


ジャズは簡易ベットで横になりながら、ブロードの持っていた金属の輪――効果装置エフェクトを手に持って眺めている。


「こんなもの、この世界で何の役に立つのよ……」


独り言を呟きながらジャズは思う。


すでに世界は崩壊したのだ。


この旧反帝国組織バイオナンバーの地下基地の外の状況は、メディスンの話によれば大災害が定期的に起こり、黒い人型の光の化け物で埋め尽くされている。


プロコラットの話や彼の状態を見るに、イード·レイヴェンスクロフトが行った儀式の影響で、仲間の奇跡人スーパーナチュラル呪いの儘リメイン カースは身体の一部を失っているはずだ。


きっとここにいない者たちが生きているはずがない。


そう――。


ずっと一緒にいたマシーナリーウイルスの適合者の少年も――。


「みんな……死んで……ミックスももういない……。世界はこのまま死を待つだけ……」


ジャズはベットに横になりながら、突然持っていた効果装置エフェクトを放り投げた。


「こんなものあったって……一体何ができるっていうんだよッ!」


どこへもぶつけられない感情を、物に当たることでしか晴らせないジャズ。


彼女がそんな自分を情けないと思っていると、投げ捨てられた金属の輪が起動する。


《これを見ているのがジャズ、お前であることを願う。……やはり慣れないな、こういうことはどうもこっぱずかしい》


そこにはホログラムで映し出された亡き叔父――ブロード·フェンダーの姿があった。


きっと壁に叩きつけたときに、何かの拍子でホログラム·メッセージのスイッチが押されたのだろう。


ジャズはやはり見たくないのか、すぐに映像を消そうとベットから身体を起こした。


しかし、そこで改めてブロードの姿を見たジャズは思わず両目を見開いてしまう。


ストリング帝国軍の大佐として、アフタークロエ以前から多くの戦場に参加して来た叔父――。


今ホログラムで映し出されている姿は、まるで別人に見えた。


顔や両腕には火傷の痕のようなもので覆われ、まだ目新しい生々しい傷が見える。


そして、その顔は生前の叔父とは思えぬほど青白く、見たまま病人だった。


「叔父さん……。あたしを助けたせいで……こんな姿で……死んじゃったんだ……」


そんなブロードの姿を見たジャズは、ずっと堪えてきた涙を思いっきり流した。


声に出して泣き、まるで子供のように喚きながら椅子に座っている電源の入っていないニコを抱く。


「叔父さんもメイカも、なんであたしなんか助けたんだよッ! それで自分が死んじゃったら意味ないじゃないッ!」


部屋にジャズの泣き叫ぶ声が響く中、ホログラムのブロードは言葉を続けていた。


《さてと。では、恥ずかしさに堪えて話を続けるとするか》

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