#565
ジャズは問いかけてくるイードを無視して叫んだ。
今すぐミックスを掴んでいるその手を離せと。
だが、張っていたその声も次第に弱々しくなり、最後には悲願へと変わっていく。
「お願い……ミックスを殺さないで……」
そんなジャズにすでに戦意はなく、ただ大事な者を思う一人の少女になっていた。
年相応の幼い顔で、握っていたナイフを手放し、その場に両膝をついてミックスの助けを乞う。
イードはそんなジャズを一瞥すると、ミックスを放り投げた。
すでに戦えるような身体ではないミックスは、まるで息を引き取ったマグロのようにドサッと地面に倒れる。
「帝国兵の娘よ。お前は何しにここへ来たのだ?」
それからイードは再びジャズに訊ねた。
マシーナリーウイルスの適合者でもなく、
自分の非力さも理解できぬほど愚かなのか。
イードはジャズを哀れでならないと、その太い首を振っている。
「そんな奴の戯言を聞いてんじゃねぇぞッ!」
そこへブラスターハンドガンをぶっ放しながら飛び込んできた人物がいた。
頭全体を覆う感じでバンダナを巻いた青年――ソウルミューだ。
ソウルミューはジェットパックをブーストさせながら襲ったが、イードは右手で大きく円を描いて現れた光の輪を放って迎撃。
意気込んで飛び掛かってきたソウルミューは、その光の輪によって地面に押さえつけられる。
「まだ息があったか、ブルースの息子よ」
「テメェは必ずオレが殺すッ! ダブのためにも絶対に殺してやるッ!」
「少し黙っていろ。うるさくて敵わん」
イードが指をパチンと鳴らすと、ソウルミューを押さえつけていた光が彼の顔を覆い、その口は封じられた。
そして、先ほどジャズを見たときのように、哀れだといわんばかりの顔でソウルミューを見下ろしている。
「お前たちは力を合わせて私を止めようとしていたようだが、どうやら失敗だな」
イードはそう言うと、何が失敗なのかを説明し始めた。
自分から世界を救おうとして来たとばかり思っていたが、全員がそうではない。
たとえばこのソウルミューがそうだ。
この者は仲間を失ったと聞いて逆上。
その結果、求めるものが復讐へと変わった。
「お前もブルースの息子と同じだろう? 適合者の少年を殺せば逆上して復讐を求める」
ジャズは何も言葉を返すことができなかった。
それは、もはや自分一人にどうにかできる相手ではないことを理解していただけでなく、イードが言うことは間違いなく当たっているからだった。
ミックスを失えば必ず今のソウルミューのように取り乱す。
ジャズはそんな自分を思い描いてしまっていた。
「マスター·メイカとロウル·リンギングは見事だった。二人は純粋に世界を救おうと動いていたのだ。ただ纏まりを失った意志では私を止められなかったというだけのことだ」
イードはそう言うと、掌を倒れているミックスへと翳した。
その手は次第に光を帯び始め、ジャズはイードが何をしようとしているのか気が付く。
「お願いやめてぇぇぇッ!」
叫ぶことしかできない。
ジャズは自分の無力さに涙しながらも喉が枯れるほど声を張り上げたが、イードはその手の光りをミックスへと放った。
もう駄目だと思われたそのとき――。
「兄弟を殺らせるかよッ!」
「そいつは殺させないぞッ!」
二人の男がミックスの壁となって光を弾き飛ばした。
その二人の男を見てイードは眉をひそめる。
「全く、ここへきて
その二人の男とは、捕らえられていたはずのプロコラットとイードの息子であるシン·レイヴェンスクロフトだった。
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