#536
――イードは自分の軍幕テントに戻り、信者から報告を受けていた。
これからバイオニクス共和国へ攻撃が開始される。
こないだ起きた事件――サーベイランス·ゴートの暴走でシステム全体にダメージを受けている共和国には
――と、前線に幹部の言葉を、目の前にいる信者から聞いていた。
「報告ご苦労。では、我々は第二陣を用意する」
イードがそう言うと、信者は大きく頭を下げて軍幕内から去っていった。
その後――。
イードもすぐに軍幕を出ると、兵糧を管理している信者の元へと向かった。
突然現れた最高指導者の姿を見た兵糧管理者は、大慌てでその場で土下座した。
申し訳ございません。
用意したつもりがちゃんと届いてなかったのですかと。
地面に自分の頭を擦り付けていた。
この人口が減った世界で、何万何十万と信者を持つ宗教団体の教祖が、わざわざ自分から食事を取りに来ることなどあり得ない。
そう思った兵糧管理者は、自分に指示に落ち度があったのだと考えざる得なかったのだ。
だが、イードは頭を下げる必要はないと言い、一人分の食事を用意してほしいと頼んだ。
息子がせっかく用意してくれた食事を台無しにしてしまったのだと、逆に兵糧管理者に謝罪する。
自分はどうも父親として足りないところが多いようだと言葉を付けたし、兵糧管理者はいつもよくやってくれていると労う。
それを聞いた兵糧管理者は涙を流して感激し、これまで以上に精進しますとさらに深く頭を下げるのだった。
それからイードは一人分の食事を受け取り、息子のダブがいる軍幕テントへと向かう。
「たかが食事を取りに行っただけでこれか……。どうやら
そして、夜風に当たりながら一人笑みを浮かべた。
「食事を持って来た。今度はちゃんと食べるのだぞ」
イードがダブのいる軍幕テントに入ると、そこには息子が倒れていた。
その傍では、神具の力によってこの場に映し出されたもう一人のダブの兄であるシンが涙を流している。
イードは慌ててダブに駆け寄ると、息子が死んでいることに気が付く。
「自ら命を絶ったのか……。馬鹿なことをしたな、息子よ……」
ダブは自分で破壊しただろうマラカスのような体鳴楽器――神具シストルムを抱きしめてた。
自分の頭に精神攻撃をしたのだろう。
息を引き取っているダブの顔、身体は傷一つなく、生前のまま美しいままだった。
それからイードは、シンへ声をかける。
「お前がダブに何か言ったのか?」
「違う……。ダブは最初から死ぬつもりだった……。俺はただ……訊いただけだ……」
「そうか」
シンの言葉を聞いたイードは、ダブに食べさせるつもりで持ってきた食事を、机の上に置くと息子の死体に手を伸ばし、その身体を抱き上げるのだった。
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