#532
声を張り上げ、今にも殴り掛かって来そうなジャズに対し、メイカは睨んでいた顔をさらに強張らせた。
そして、急におどけたように不敵に笑うと、自分の使命は世界を救うことであってジャズの国――ストリング帝国の人間を助けることではないと返事をする。
その言葉にジャズはさらに逆上。
メイカの胸元を掴んでその身体を揺すった。
「あなたは使命を果てせればそれでいいって言うの!? いくら人間が死んでも世界が救えればそれでいいのッ!? あたしはそんなの間違ってると思うッ!」
ミックスがそんな彼女をまた止めようとしたが、何故かロウルは彼を止める。
ジャズがメイカを間違っていると言い、
すると、メイカはうんざりした表情をして、掴まれた胸元から手を払う。
「ご立派だねぇ。その歳で将校になるだけあって、ジャズ·スクワイア中尉は大した
「あなたは何をしに共和国へ来たのッ! 使命を果たすためとか言ってるけど、あたしに喧嘩を売りたいなら買ってやろうじゃないッ!」
「あんたみたいな雑魚と喧嘩してどうなる? そんなんで世界が守れるなら今すぐぶん殴ってやるけど、そうじゃない。神具を守らないと世界は法衣ゴリラ……イードの奴に滅ぼされるんだ」
ジャズはその言い草に腹を立てながらも深呼吸をし、メイカの右目――神具クロノスに人差し指で向けた。
「だったらその神具を破壊してやればいいじゃない」
「それはできない。世界とクロノスを守るのはあたしの使命だ」
「状況が状況でしょ!? ったく、どっちが石頭娘よ」
「十代の小娘がいくら挑発しようがどんな状況になろうが、神具は破壊できない。イードとの戦いにはクロノスの力がいる」
「でも、そのイードが神具を手に入れたら世界が滅ぼされるんでしょッ!?」
「あたしたちが道を間違えなければ問題ない」
「あんたがいう道ってのは人を守るものじゃないでしょ!? ふん、何がマスターメイカよ。いい歳こいて中二病もいいとこじゃない」
「中二病が
この口悪く言い合う話の後に、メイカはたとえ共和国にある神具をすべて破壊したとしても無意味だと語った。
神具とは、そもそもこの世界の各地に住む神々や精霊が具現化したものであり、ここにある神具を破壊したところで、イードはまた別の神具を見つけるだけだと言う。
「だから神具を破壊しても意味がないんだよ。わかったか聖人君子の中尉殿?」
「その言い方……ホントなんとかなんなんわけッ!」
その後も、ジャズとメイカの話し合いは互いに平行線。
話が進んだかと思えばすぐに言い争いを始め、ミックスとロウルはただ見ているだけでも疲労
――ストリング帝国を滅ぼし、目的であった神具、
軍幕の中で、一段高い席に座るイード横に並ぶ幹部たちも彼が食事に箸を付けてから食べ始めている。
「本拠地に戻り次第、私は儀式に入る。お前たちは残りの神具を集めるのだ」
食事を取りながら、イードは弟子たちにバイオニクス共和国を襲撃するように命を出していると、そこへ一人の人物が軍幕の中に入って来る。
「やっぱメシか……。いい匂いだねぇ」
それは半分長髪でもう半分がスキンヘッドの男――。
他の幹部らエンポリの姿を見て怪訝な顔をした。
それはアルマー兄弟がイードの命を受け、神具クロノスを手に入れるに失敗したことが、すでに組織内で知らされていたからだった。
「腹……減ったなぁ……」
だがエンポリはそんな幹部らの目など気にせずに、ユラユラとゾンビのように軍幕内に入って来る。
それから幹部の一人が、エンポリに兄のジョルジはどうしたのだと訊ねた。
すると、エンポリは急に取り乱してその場に両膝から崩れていく。
「兄ちゃんは……兄ちゃんは俺を置いて行っちまったよぉぉぉ」
そして、その場でまるで母を求める赤子のように泣き喚き出す。
そんな彼を見た幹部らはさらに怪訝な顔になっていた。
「俺は、もう帰るとこがねぇんだぁぁぁ……」
兄であるジョルジがエンポリの支えだったのだ。
それを失った今のエンポリはもう役に立たない。
幹部の誰もがそう思っていた。
だが、イードは席から立ち上がるとエンポリのもと歩いて行く。
そして、泣き喚くエンポリを抱きしめると、その口を開いた。
「エンポリの分の食事を用意しろ」
幹部らは師であるイードに訊ねた。
この者は失敗して逃げ帰って来ただけの無能である。
こんな人間に情けなどかけてやる必要ないと、皆それぞれ口にした。
しかし、イードは抱いたエンポリを自分の座っていた席に降ろすと、そのまま軍幕を出て行った。
「いいか、エンポリは自分の命よりも大事なものを失ったのだ。そのような者を捨てておけぬ」
そしてイードは去り際に、必ずエンポリに食事を取らせ、手厚く休ませるように言った。
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